2008-12-25

積年

ノスタルジーが
いい加減、年を取りすぎた僕らに
重荷のようにのしかかってきて潰されそうな僕の背骨の軋む音が聞こえる

いいや、これは悲鳴なのだ
潰されそうな僕自身の肺の奥から響いてくる、喉を焼くような潜熱が声帯を焦がすように
喘ぎが、絶え絶えと続いている。


僕はもう、斯うした過去とは決別し
生まれ変わったかのような顔をして、今日の時代を生きているけれど

夜の12時を過ぎれば、違う人生が始まった幼少のころの様にはもううまくいかなくて
昨日と今日と明日と明後日の、無分別なつながりに
首を吊られたような苦しみを覚えるのです

幼い頃の楽しかった思い出さえもが、今の僕の心に見境無く干渉し
そうして忘れたはずの感傷を今更になって揺り動かすのです
僕は未だ過去に縛られているのでしょうか
思い出とはどうして
乞うも現世を捉えてしまうのでしょうか

亡霊の笑顔に魅了された者は
いずれも皆黄泉の国に連れさらわれてしまうのが
古くからある物語の
決まり切ったエピソード

感傷の古傷からあふれ出した血液が
辺りを覆う頃
僕は一人微笑みを浮かべて
地の底を這うのでしょうか

教えてくださいませ
どなたか
縫合の仕方を
針と糸の併せ方を

ピンセットは、ここにございます
古傷は、ここに、

忘れられた品々は嗤う

落とし物を捜して

日夜歩き回るあの日の僕を駅前で捕まえました。

そんなもの探してもしょうがないから、もう、家に帰りな。

そう言ってやった僕の目を、あの日の僕は
呆然と見つめ返したのです。

そんなこと言っても、なくした物は、拾わなくちゃ。
なくした物はどこへ行くの?

暗い、暗い、何処か、闇のそこで、誰にも気づかれない、音の聞こえない、光の射さない。

ただ、静かに、誰かの楽しげな、笑い声だけが、幻聴のように
自分の関与できない幸せが、何処か、手の届かない遠くの方に
行き過ぎるだけの静かな場所で、永遠にも近い時間を
忘れられたものは過ごしているの?

暗渠?
いや、そんなものじゃない。
暗渠には、出口も、入り口もあるんだ。

なくしたものは、きっと、もうどこから来たのかも忘れて、
どこへ行くべきかも忘れてしまって

ただ暗い闇の底
静かに、静かに、流れの止まった、川底の澱のように
その時々を沈むんだ

時間ももはや沈殿を初めて
忘れられたものたちは、
濁った視界に遮られ

純粋な暗黒さえ、得られぬまま
ちっと小さく舌打ちして

忘れた僕らを憎むんだ


だから、探さなくちゃいけない


過去の僕は今の僕の止めるのも聞かず
そうして過去の駅前で
なくしたものを探すのでした

今の僕は、おもえばこれまで、
一体、いくつのことを忘れてきたのかと
考えるだに恐ろしくて、そのことを考えることすら忘れて
今日を安穏と、生きてきたのです。

忘れることで、今日を生きることが出来るのだと
僕は思うのですが、その一方で
僕は多くのものを自分の見えない後ろに
うち捨ててきたような気がして
ふり返るのさえ、怖いのです。

そうして、うずたかく積もった忘却の過去に
僕はいずれ、飲み込まれていくのでしょう

その時、僕は
探さなかった幾つもの見たくもない過去の事象と
どのような顔をして向き合うのでしょうか

僕はその日が怖いのです
だけれども、こうして
なくしたものをまだ探そうとしている
過去の僕を手伝うわけにも行かずに

僕はその駅を、去ったのでした。

2008-12-20

im-potent

なんだかね、

言葉にしたいことが心の中に渦を巻いているのに、

ちっともかたちにならないんだ。


裸の女の子を前に、何も出来ないでいる男の子に
この心情は近いと思うよ。

意味

すべて、意味のあることが、


憎たらしいと思うことが、ないでもない。


意味のあることを憎むあまり、意味のない方向へ
方向へと

僕は流れていっているような気がしている。

いつか、世界から意味が消えたら、


一番困るのは僕かも知れない。