春、僕らは、無数に咲き誇る桜の花の下で、
互いに喜びを分かち合い、朗らかに微笑む。
(花は、植物の生殖器に相当する。
花粉は、精細胞を運ぶ、入れ物だ。)
その足下にはたくさんのタンポポの花。
これはよく見れば、いくつもの花の集合体。
(僕らは春という、植物たちの巨大な性交渉の渦のただ中にいて、
それをそれと認識しないまま、朗らかに微笑みながら、散歩している。)
一匹のコガネムシが小さな花の奥底に入り込んで、
花粉まみれになりながら這いずり回っている。
道ばたに咲く、花に顔を近づけて、その香りを愛でる人がいる。
その花を、じっと見つめて微笑む人もいる
花屋には、たくさんの花が売られている。
たくさんの植物が、その店先には飾られている。
誰かがくしゃみをした。
きっと、鼻に、スギの花粉でも、
入ってしまったのだろう。
花というものは、人間が春を感じるのに、
無くてはならないものだ。
ある者はそれを愛で
ある者はその匂いをかぎ
ある者はそれをじっと見つめることで
銘々の春を謳歌する。
向こうに座った男は
傍らに座った一人の美しい女性の髪に
自らの手で摘んだ一輪の白い小さな花を挿し
よく似合うよ、
と言って、穏やかに笑った。
幸福そうに微笑む彼女の髪には、
一輪の生殖器が、こぼれんばかりに咲いている。
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