落としたのなら、正直に、そう言うといい
だれも、君を責めたりはしないから
君はもう、それを失ってしまったのだろう
遠い渚の、アスファルトの防波堤の、いつだったか腰掛けて、
ぬるいコーラを飲み干したあの場所に
戯れる蟹もいないあの砂浜には、砂の城すら築かれなくて
高台の灯台守は、ふもとで遊ぶ子供らに、怒鳴りつけることさえもなく
だた丘を昇り、船を見て、いい気持ちで深呼吸している彼らに
優しく笑ってみようかと、鏡を見ながら、微笑む練習をはじめて
いい加減、上手に笑えるようになった時には
彼らの姿はもうなくて
灯台守は仕方なく、沈み始めた太陽に、こっそりと笑顔を向けてみたりする
中身のすっかり干上がったコーラの空き缶が
ザリガニのすみかとなるまでに
今朝来た子供らはいつしか、安定と節約という魔法の呪文で
この世界は出来ていることを知り
大人になると言うことが
どんなものでも数えられるようになることと、ほとんど同義なのだと悟って
無限に広かった海はその時、小さな一リットルのバケツの中に収まってしまい
悠久に拡がった丘の上の空はもう、僕らの空ではなくなってしまうその瞬間を乗り越え
いつだったか、思い出が、夢と同じに、頭の中にしか存在しないことに気づいて
ただ泣き叫ぶ石の上で
残酷なのは破れた夢ではなく破れずにいる思い出
消せない過去ではなく、描けない未来
現在という点から、一歩も外に踏み出せない僕らは
未だ広い海の前で途方に暮れながら
いつしか日は沈み
笑顔の練習をしていた灯台守すらも眠ってしまって
ただ、空き缶を握りしめながら
海ばかりを見ていたことに気がつく
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