タンパク精製。
タンパク精製って、なんとなく、低温室に閉じこもって、寒さに震えながらやるもの、
ってイメージがあったが、今回はぜんぜん室温。
扱うタンパクが、変性条件下で取り扱うもののため、
そもそも失活している。
でも、濃縮や、精製そのものにも、やたら時間がかかる上に、まとまった待ち時間が無かったりして、一日中立ちっぱなし。
足の裏が痛い。
いつかやると思っていた失敗を、ついにしてしまった。
『財布を忘れて、愉快な...』である。
私は大抵、日曜日に、その週に使う食材を買うために近所のスーパーに行く。
一週間に使う食材、というと、結構な量を買いそうだが、そもそも、平日はまともな料理をする暇がほとんど無いため、それにかまけて、テキトーなものを食べてしまうことが多い。
それゆえ、一週間の食材など、たかが知れている。金額にして、1-2千円くらいか。
ところが、この1-2千円というのが、微妙な数字なのである。
これは私の昔からのこだわりなのだが、“余計な金を持たない”という、妙な主義がある。
一度に金を下ろすのは大抵3000円。これだけあれば、2-3日は持つからだ。そのため、私の財布は、何か大きな予定でもない限り、一万円札を、知らない。
たまに予定があって、5千円でも下ろそうものなら、預金通帳に記帳した両親がびっくりたまげて(通帳は実家に置いたままなのだ)、わざわざ電話をよこすほどである。
いつも三千円ポッキリしか下ろさない自分を、常々からかっておきながら、いざとなるとこうなのだから、めんどくさい両親だ。
その都度、振り込め詐欺などに騙し取られたわけではないことを、説明しなくてはならない。
この息子には、信用が、無いのか。
それはさておき、
そんなわけで、私の財布には、多くて3千円程度の金しか、入っていないのだ。
つまり、である。
もし、日曜日に、お金を下ろさずに、スーパーに行ってしまうと、その前日などに何かを買っていて、金額が減っていた場合には、一週間の食材を買うには、お金が足りなくなる。
私が、やってしまったのは、まさにこれだった。
いつものように、あれを買い、これを買い、さらに、米が切れていたのを思い出して、米まで買い(運が悪いとしか言いようが無い) 、レジに並んで、おばちゃんが、バーコードを読んでいるさまを横目に、財布の中を見れば、あら不思議。千円くらいしか、入ってないのである。
はっとあわてて、レジの小計を見ると、まさに、千円から千二百五十円、千五百円...、と移り変わって行く、さなかであった。
千二百五十円なら、まだ小銭で何とかなるかも、という希望が持てる。しかし、千五百円では無理である。
その刹那に襲ってきた、脱力感、無力感。
全身の血が引いていく感覚。
腋の下を冷や汗が走っていく。
どうしよう。
値段はどんどんつりあがって行く。
何とかしなければならない。
わたしはとりあえず、
「しまった」
と言ってみた。
しかし、手馴れたおばちゃんはもはや、レジスターの一部と化しており、そんな私の言葉など、届かない。
右から左へ、どんどん商品は移っていく。
ああ、もうレジが終わる。
そこで、もう一度、今度はもう少しはっきりと、
「あの、すいません...」
と切り出してみた。
おばちゃんに内蔵された、レジスター・モードのスイッチが、そこでようやく切れたらしく、レジのおばちゃんは、斜めの姿勢のまま、首だけを向けて、こちらを仰いだ。
今だ。
私は間髪入れず、
「お金を下ろすのを忘れてしまって...。これ、返してきます」
と言った。
おばちゃんにとってはよほど想定外の出来事だったらしく、目をまん丸にしてこちらを見た。
マニュアルに従って動く何がしかが、予想外の事態に対応するためには、『危機管理マニュアル』をインストールする必要がある。
長い沈黙。(おそらく“再起動”)
おばちゃんは、電気の切れたマシーンさながら、ぽかんとして、こちらを見ていた。
永遠にも近い時間が経過したと思われる。
やがて、おばちゃんは、はっと、正気を取りもどし、
「え、あ、何? これ、全部返すんですか」
明らかに、おばちゃんのほうも、あわてていた。
「はい、ぜんぶ...。お願いします」
いまさら、持ち金に合わせて、一部返却など、嫌だった。とにかく、一秒でも早く、ここから、立ち去りたかった。
おばちゃんは、しばらく右往左往した後、近くにいた若い男の店員さんに声をかけ、レジの記録を消す作業をやってもらった。
私は、成す術も無く、かといって、そそくさと帰るのも気が引けて、その作業をじっと見ていたのだが、店員さんは、そんな所在無げな私に気づくと、気を使って、
「あ、いいですよ、あとやっておきますんで」
と言ってくれた。とはいえ、私は無駄に律儀な人間であるので、せめて、その店員さんの未知の作業が一息つくまで、その場に突っ立って、見届けた。
その後、私は逃げるようにして店を出た。
もはや、金を下ろして、再びあのスーパーに行く気はしなかった。
自炊はあきらめた。
その日は、出来合いの、コンビニのパンだったことは、言うまでも無い。
--
みんなが笑ってる (心の中で)。お日様も笑ってる(私の中で)。
ルールルルッルルー (何が楽しいの?)
今日もいい天気。
0 件のコメント:
コメントを投稿