2007-11-20

寒中行脚/a point and a line

【今日やったこと】

健康診断へ

有機溶媒を実験で扱っている人は、念のため、
肝機能の検診を受けなくてはいけないらしい。

検査項目は、かの有名な ガンマGTP等。

俺、夕べ、みんなで、けっこう、飲んじゃったんだよね。

ある意味あれも、有機溶媒 (5-15%)

不安。
◇◇◇


今回の土日は、寒いのを押し切って、あちらこちら行ってきた。
だから、書くことに事欠かない。

金曜日、週末の過ごし方に悩んでいると、研究室のある先生から、
「モエレ沼公園」の存在を教えられた。

何でも、その話を聞くに、大きな人工の丘があり、景色がきれいで、三角錐のモニュメントがあって、雪が降ってもきれい、だという。


どんなものだか、はっきりとイメージできなかったが、なんだかよいところのようなので、
今週末には絶対行こうと決め、土曜日に早速出かけた。

早速出かけた、というと、いかにも朝から外出したようだが、実際には、その前にもいろいろ用事があって、本当に出かけたのは2:30過ぎだった。いつもながら、私は外出するぞと決めてから、実際家を出るまでが、きわめて遅い。

テレビをふと見てしまったりすると、それに気をとられて、あっという間に2時間近く過ぎてしまったりすることが、よくある。この日も、出かけるぞ、と決めたのは12:00過ぎのことなので、いつものパターンに見事にはまっていたことになる。

ただし、これは別に仕事ではないのだし、過ごしたいように過ごすのが一番なので、私は別にこの悪癖を、普段気にも留めていない (人を待たせているときは、別だが)。

しかし、今回は、この悪癖が、まさに命取りとなった。

最寄りの地下鉄の駅から、モエレ沼行きのバスが出る駅まで30分弱。そこから、バスを待つこと1時間弱、バスに揺られて、目的地に着いたのは5時だった。

冬の北海道の日の入りは、きわめて早い。

午後3時くらいになると、もう太陽に、夕焼けの色が混じり始め、4時には夕暮れを感じる。
そして、5時を過ぎると、もうあたりは真っ暗である。

秋の日はつるべ落とし、というが、北海道の冬の日は隕石でも落としたかのような早さだ。

案の定、今回も、バス停「モエレ沼公園西口」についたときには、あたりは真っ暗であった。

暗い中に、巨大な丘と、その頂上の三角錐のモニュメントが、その巨大なシルエットだけ、おぼろげに見える。

昼間見ると、それは感動を呼ぶのかもしれないが、ほとんどライトアップもない冬の暗黒の中では、それはうずくまる巨大な生き物のようで、ものすごい、恐怖を覚えた。

しかもあたりは木々も少なく、開けた土地で、冷く強い夜の風が、まともに吹き付ける。
逃げ場はない。誰も、助けてくれそうにない。

体温の低下を感じる。あたりに民家は少ない。

私の意欲は急速に減退し、私は公園に入るのはあきらめ、すぐに帰ろうと思った。

あわてて、先ほど降りたバス停に戻った。

あたりは真っ暗で、時刻表すら、満足に読めない。

見慣れぬ時刻表をひもとき、最も速いバスを見いだして、私は愕然とした。

最短でも1時間近く、待たねばならない。

この寒い中!

私は頭の片隅で死を覚悟した。


...明日の朝、この何もないバス停の片隅にうずくまるように死んでいる私を見つけ、身元が判明し、知り合いが引き取りにきて、まず思うだろう。

『こいつ、何しに行ったんだ?』

死亡推定時刻は夕方。凍死と思われる。

疑念はますます深まる。
なぜ、夕方に?

おそらく、北海道警でも腕利きのベテラン刑事か、本庁のはぐれものの刑事が、これをいぶかしがり、他殺説を唱えるだろう。

彼は、コンビを組まされた、若い新米刑事に言う。

「寒い中では、死亡推定時刻は大きくずれる。...ガイシャは、他所で殺された後、ここに運ばれた可能性もある」

上の命令を無視し、私の他殺を証明すべく、彼はいろいろ手を焼くが、全く証拠は集まらない。それはそうだ。妙な時間に遊びに来た、私の無鉄砲な判断が、そもそもの死因なのだから。

次第に新米刑事もそのベテランの捜査を疑い、距離を置き始める。

しかし、ベテランの刑事はそのとき言うだろう。

「これが、ただの凍死だって?そんなはずはない。納得できない。ここに至る、動機が無いじゃないか!」

人間の判断のすべてが合理的とは限らない(時に『徘徊』と揶揄される、私の無意味な外出に関しては、特に)。

でも、人間を信ずる寡黙なベテラン刑事は、きっとこの件で、捜査一課をクビになってしまうだろう。

...


幸い、この私の『最悪の結末』は現実のものとなることはなかった。

冷たい夜風 (強風!)の吹き荒れる中、私は、こうした、『死の幻影』から逃れるように歩き続けた。バスが来た方向を、何とかして思い出し、それをたどるようにしながら。

そして、遠く視界の彼方に、ミニストップの看板を見つけた時には、長い航海の果てに、新大陸を発見したコロンブスよろしく小躍りした。

すぐに缶コーヒーを買って体を温め、肉まんをほおばり、体力を回復した。

風と寒さに、髪の毛は逆立ち、生きた心地のしなかった私が、最初に店に入ってきたのを見た高校生くらいの店員さんは、その大きな丸い顔の中で、一瞬、目を見開いた。

ミニストップのおかげで、私はモエレ沼の氷柱にならずにすんだが、おそらく彼女の心は、その瞬間、恐怖に凍り付いたであろう。

迷惑なことに、そこで時間をつぶしたあと、元来た道をバスで帰った。

家に着き、いつもの安っぽいネスカフェを飲んだとき、私は生きていることを、実感した。