2008-04-09

あとがき

はい。
こんな感じです。

ちょっと後半は急ぎすぎたかな。

でも、言いたいことは言えました。

もしだったら、後で、もっと書き直したいところはいっぱいありますが、
今はなかなかその時間的余裕もなく、
全体的に、荒削りな印象はぬぐえません。

もっと先を書いても良いかとは思いましたが、
この先は自分の中で、大体予想できてしまったし
この三人のドラマを完結させることが、そもそもの目的でもなかったので、
キリがいいと判断したところで筆を置きました。

次は、時間がかかるかもしれないけど、
出来ればもっと上手に時間を取って、
しっかり書き込みたいです。

暇なときに、感想下さい。

それから、もしだったら、戯れに、
どこかの文学賞に投稿してみようと思います。
せっかく、書くわけですし。

何作か、此処に出した文章のうち、
好きな物が今後にでも、あったら、
教えて下さい。

では、また次作をお楽しみに。

○▲□ (まるさんかくしかく) - 17

「徹也君、ね」

カタクリは言った。僕にその瞳を向けて。
「いい名前だね。じゃあ、なれなれしいかもしれないけど、テツヤって呼んでもいい?」

「別にいい...けど、」
僕は特に断る理由もなかったので、そう答えたが、
彼女の意図する物は、分からなかった。

その大きな瞳の奥に浮かぶものが、
果たして何ものなのかも。

「仲良くなっても、名字で呼んでいると、なんだか名前を呼ぶ度に、距離が開いていく感じがしない?」
僕のとまどいを察したかのように、彼女は言った。
「だからだよ。」

ふふ
カタクリの向こうで、シイタケが笑った。
「じゃあ、あたしも、テツヤって、呼ぼうかな。」

カタクリが、驚いて咄嗟にそちらを振り向いた。

ごめんね、ミズハちゃん。

シイタケは歯をむき出し、意地悪そうに、そう言って笑った。
また変な位置に、えくぼができた。


それを見てカタクリも、くつくつと笑った。
まるで、仲のよい姉妹のようで、気がつくと僕まで笑顔になっていた。


僕らはそうしているうちに、まどろみ始めた。
慣れない労働で、疲れていたこともあったのかもしれない。
何より、昼下がりの陽光は身に心地よかった。

僕はいつしか、そのまま眠りに落ち、
そして、短い時間ではあったが、夢を見た。


僕は小高い丘に立っていた。

見渡す限りの畑には黒ヤギの描いた無数の幾何学模様が並んでいる。

まる、さんかく、しかく...。

よく見れば、一つ一つは、単純この上ない図形だった。

だが、それらが、一平面上に並んで、さらにお互いに
複雑に、複雑に組み合わさることで、ミステリーと称されるほど、
それは捉え所のない模様を形作っていた。

一つ一つに分解していけば、それを元の単純な図形に戻す事は出来る。
そうすれば、もっと簡単に、この模様の意味を理解できるのかもしれない。

だが、そのときにはすでに、
その全体の意味は見失われてしまっている。

気がつけば、ミステリーはどこかに、消えている。

黒ヤギは夢の中で、その模様を描き続けていた。
まるで、自らの心の内を表現しているかのように。

僕はそれを傍らで見ながら、
それを理解する方法について、試行錯誤を繰り返していた。

「経ク諸ン!」

佐武朗のくしゃみで、目が覚めた。


太陽はまだ、空の高いところを照らしている。
及川さん達は皆起きた。

僕は、勢いを付けて体を起こした。

隣で、シイタケとカタクリがすやすやと、寝息を立てている。
彼女らは、あの二人向かい合って笑った姿勢のまま、
眠ってしまったようだった。

彼女らのいずれも、その表情は、
眠りに落ちる前の無邪気な笑みを、まだ微かに残していた。

僕は、そうして無心に眠りを貪る彼女らを見て、
ふと、微笑んでしまった。


その時、僕は思ったのだ。

僕は今、彼女らにある種のいとおしさを感じた。
そして、なぜだか微笑んでしまった。
たったそれだけで、十分なのだと。

僕らは、生理現象として恋をしているにすぎない。
優しさは、それに伴う、一種の発作だ。

そもそも理由などなくても、人を好きには、なれてしまうのだ。

人はみんな、複雑そうな物は分解したがる。
でも、分解して組み立てて、動かなくなってしまった時計は
世界にいくつも転がっている。

分解するだけが、答えに通じる道なのか?
複雑な物は、複雑な物のままでは、いけないのだろうか。


僕は、立ち上がり、体に付いた土と麦の葉を払って、
放り出していた作業を、再開し始めた。

あ!

後ろで、カタクリとシイタケが飛び起きたのが分かった。

彼女らは、恥ずかしそうに笑いながら、僕の方へあわてて駆けてくる。
一匹のうり坊と、すらりとした若駒が、並んで駆けてくるようで、
なんだか滑稽だった。

シイタケの頭には、一枚、麦の葉の切れ端が付いたままになっている。

僕はそれを右手でつまんで、
髪の毛の間から、取ってあげた。

おっ。
彼女は言った。

“テツヤ”も優しいところ、あるねえ。

そう言って笑っていた。


僕らはその、時にミステリーと称される、不思議な幾何学模様の中にいて、

自分達の立っている場所を時々地図で確認しながら、

三人で一つの板を踏みしめ、麦畑に再び図形を描き始めた。


[完]