たった一つの、火鉢の暖かみでさえ、
今の僕には遠いのです
寒い日に、手袋も嵌めずに冷えた手を握りしめてくれたその感覚が
いまでもときどきポケットの中でこそばゆく蘇るのに
僕は雪でつるつるに凍った道を白い息、吐きながら
それでもずいぶん身軽な身体をもてあまし気味に家に帰るのです
何かが足りないけれど、何かを必要としていない自分がいて
そうして、足取りは変わらず、ひょこひょこと、
親父譲りの歩調で、今日も進むのです
それは進歩のようで、あるいは堕落への一歩のようで
どっちだか解らないけど、ただ、
立ち止まってはいないという、たったそれだけの貧乏揺すりのような
安心感を覚えながら
今日も一日は終わるのです。
遠い目で見た時に
僕のしていることは果たして正しいのかどうかは、解りません
でも、一つだけ言えることは
これもまた、
人生の一形態なのだと
スーパースターの陽炎のような夜の街を遠くに見ながら
一人コンビニ弁当を下げて
あたためますか、のひとことを、
いりません、と断った自分の
心の内を計りかねながら、
冷えた弁当を暖めるレンジのチャイムが
隣の部屋に聞こえそうになるのを
びくびくしながら、待つのです