2008-03-06

眠りにつく前に

【今日やったこと】
一次抗体O/N

もう寝よう
明日早いし
◇◇◇


最近感銘を受けた言葉。


『人生は一行のボオドレエルにもしかない』
-- 芥川龍之介

『女房は死んだ、俺は自由だ!!』
  -- シャルル・ボードレール

アーティファクト

【今日やったこと】
一次抗体の合間に

いろいろ考えてしまうこの頃
こういうときは
書いて書いて書きまくる
見境無く


◇◇◇



アーティファクト
アーティファクト

人工生成物

自然の力によっては生まれなかった存在
自然界に存在し得ない存在

そもそもそれすら望んで生まれたわけではなく
場合によってはできの良い父親に恵まれた不出来の息子のように
己を創ったことを恨んですらいるのかもしれない

虫を殺す遺伝子を植え込まれたマメなどは
己の花をしたって飛んでくる美しい蝶の
その忘れ形見の幼い芋虫すら
その手の内で殺してしまうのだ

青い色を獲得した薔薇などは 
在野に生まれた下賤な親株には 
決して存在しないこの色をある意味誇りに思っており 
気高く凛と澄ましているが

野にほころぶ親株のように
自由にはびこり咲き誇り 受粉する夢を 永遠にかなえることはない

この無菌なる部屋から飛び出して
野外に吹く風にその身を揺らすことですら
彼らにとって容易ではない


いぬもねこもかいこもぶたも
やぎもひつじもにわとりも

以前はひとに牙向けたこともあったかもしれないが
今はすっかりその牙もそがれ

小さくなったり大きくなったり、泳がされたり食われたり
毛を刈られたり茹で殺されたり

子孫を残す天然由来の目的に身勝手な人間の創った存在理屈を押し着せられ
のうのうとした顔をしながらその瞳は
真っ直ぐに人間を見ている

傍ら

【今日やったこと】

未だウェスタン
あきらめない
あきらめられない

あきらめたい...?

◇◇◇


もしも月に人が住んでいたら
いつも世界の傍らにいて
いつまでも世界の本体とは
一緒になることはできずにいる
その月に もしも人が住んでいたなら

ほほえみも涙も
戦争の炎立つ夜も
平和の基の築かれた朝も
いつも世界の傍らにいて
それを見ている立場にあって
直接どうすることもできはしない

ともに喜び祝うことも
涙を流し励ますことも
手を取り合って戦うことも
肩組み合って歌うことも
世界の傍らであるが故に
その本質とは相容れないが故に
ふれあうことさえかなわずにいる

近づいても近づいても遠ざかるのはその幻影
そもそも近づいてなどいなかったのだ
それは元々手の届かないほど彼方で、目の届かないほどの距離にいる何かに向けて美しく微笑んでいるだけだった

肩組み合って笑う彼らを
月は静かに見つめたまま
その笑いの対象にも原因にも結果にも因果のどの位置に置いても自分が関係していないことを冷たく知りながら
そして現在と過去と未来のいずれの位置に置いても自分がその場に引き出されることのないことをうすうす悟ってはいながら
それでも思わず胸を押さえて 心配だけはしていた自分の愚かさを 静かに 恥じ入っていたのです


昔長編に挑もうとして
見事に散ったテーマ
短くまとめてみたらこっちの方がよっぽどまし
(ちなみに長編の方は、酒飲みの不倫の話に発展して挫折)

空想科学者

【今日やったこと】
大腸菌、久しぶり。
PCR久しぶり。

すっかり忘れてる。
◇◇◇


夜。実験が長引きそうだったので、コンビニへ出かけ、ガラナという炭酸飲料を買った。

雪国のあつすぎる暖房がのどを渇かしてしまうので、それを潤すためにそもそも
飲み物を買おうと思ったためなのだが、結果的に買ったのは、普段でも飲まない甘い炭酸飲料だった。

甘さ控えめの時代にあって、その炭酸飲料は、昔からある古い物で、
故に、昔気質の強い甘さを今に残していた。

口に含むとその炭酸は強力で、暖かな舌の上で、人工的な香料の甘酸っぱい香りを
目一杯に振りまいてくれるのだが、飲めば飲むほど、のどが渇いた。

その甘さにくどいとも思ったが、それを捨てることはできなかった。

シャープな切れ味のコーヒーより、跡を残さない緑茶より、
口を潤すだけのミネラルウォーターなどよりも、

くどいほどの甘さを口の中にいつまでも残ししつこくしつこくひけらかし続けるこの炭酸飲料の方が素朴で、優しいのはなぜなのだろう

食べきれないほど皿によそうことを、何よりのもてなしと考える田舎の人々のような
人を一人にしてくれない優しさに反発し、今頃になって恋しがっている身勝手な自分に気づいた、今日という日に。

暖かい部屋に置かれた炭酸飲料はふたを開けるたびに、
ぷしゅうと小さく音を立てる。

誰もいない実験室の片隅にあってそれは小さなため息にも聞こえた。

心からひとと馴れ合うこともできず、いつまでも一人に慣れないままに
自分の心は未だに何の結論も出せずにいる。

自分にとっての幸せを求めるための物のはずだったこの旅が
その目的の達成という点においては手がかりすら得る事ができずにいる。

友人の多くが脱したモラトリアムに未だしっかりととらわれた曖昧模糊とした精神を破れた内蔵のように引きずり、
見えない物を追いかけて、見えてしまう物を遠ざけながら、
都合のいいピースばかりを貼り合わせ、空想のジグソーパズルは完成する。


『心象のはひいろはがね (灰色鋼) から
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲模様
(正午の管楽よりもしげく
 琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ』

--宮沢賢治 「春と修羅」より抜粋