今後の実験で使う試薬を考える。
一長一短。
結局決めかねて、後で先生と相談することにした。
明日は大事な実験。
休みなのに?
休みだから。
似ていた。
髪型、背格好、着ている服の色合い。
全体のバランス。
表情。
首に巻いた、マフラーの色まで。
一瞬、目の片隅でその姿をとらえたとき、
本人かと思った。
まさか。
確認するために、視野の中心で、それをとらえ、
まじまじと見たはずなのだが、その顔の印象はよく覚えていない。
ただ、似ているという、おぼろげな感覚と、相手も、こちらをずっと、
表情も変えずに見ていた、と言う事実だけが記憶に残っている。
今思うと、相手は、かすかに微笑んでいたような気がする。
顔は覚えていないのに、軟らかい表情を、自分は感じている。
その時間は、5分間だったのだろうか。10分間だったのだろうか。
あるいは、ほんの数秒の出来事に、過ぎなかったのかもしれない。
自分は、軽く会釈くらいは、した気がする。
目があったのは、事実だから。
でも、声はかけずに、すれ違った。
何事もなく。
声など、かけれるものか。あくまで、偶然すれ違った人に過ぎないわけだし、
根拠のない親近感を抱いてしまったのは、あくまで、自分の方だけだったのだから。
床に引いたアルコールが、静かに乾いていくように、
一瞬わき上がった空白の感情が、きれいに揮発していくのを感じながら、
液体窒素を汲みに行った。