2007-12-29

師走、坊主はふと、考える。

【今日やったこと】

久々のトランスフェクション。

普段からやっている先輩に、教わりなおしてやったけど、

以前やっていたのとやり方がずいぶん違うので、とまどう。

ある意味、この実験がきれいに決まるかどうかで、

俺の人生、少し、変わるかも。

はたして、

うまくいくと、いいのだけれど。

◇◇◇


年の瀬、師走の慌ただしさは、クリスマスの終演とともに過ぎ去り、

なんだか、急に世の中が静かになってしまった。

そうなると、ついつい考えてしまうのが、今年一年のこと。

思えば、ちょうど一年前、

自分はまだ、あの蛙の研究室にいた。

そして今、自分はウナギの研究室にいる。

この一年、環境が大きく変わって、とまどうことも多かったけれど、

いろいろ、初めての場所、初めての経験、初めての出会い、そして、いくつもの再発見があった気がする。

同じ実験でも、違うやり方があると言うことがわかったし、研究の方針、考え方、接し方にも、違いがあることがわかった。

もちろん、研究活動の面だけじゃなく、
医学部という今まで縁の無かった世界に飛び込んで、知らない用語に接し、知らない考え方に接することもできた。

学校以外でも、いろんなところでいろんな人に出会って、いろんな思いをした。

今年一番の思いでは...。ある場所を旅していて、偶然居合わせた、おもしろいおばあさん(相当な高齢)と、一緒に、小一時間、デートしたことかな。

そのおばあさんは自分のやつより立派なデジカメを持っていて、最近パソコンを習い始めたとかで、家に帰って、それに取り込むんだ、なんて言ってた。

すごいバイタリティー。まだ半分も生きていない若造は、終始押されっぱなしだった。

自分も一人旅だったし、向こうも、そのようだったので、お互い
旅の道連れが欲しかったのかもしれない。

名前も知らない、どこに住んでいるのかも、結局しらないけど。
たぶん、もう二度と無い、いい思い出ができた。

自分の、数えるくらいしかない、デートのうちの一つ。
どれもこれもが、ただただ、酸っぱくて、ちっとも甘さのないことが多かったけど。


まあ、でも考えてみれば、ほんとにいろいろあったなあ、この一年。ここに書いたことも、書かなかったことも、自分にとってはどちらも大きな、大切な思い出。

また来年も、いい思い出が増えてくれるといい。

書けることも、書けないことも。

2007-12-25

あとがき

【今日やったこと】

モノクロの世話。

明日の準備。


あしたは、この一年の総締めくくり。

一年分の研究成果を、まとめて発表する日。

でも、

先輩と共同研究だから、俺の言う分、だいぶ少ないんだよね。

楽と言えば楽。

切ないと言えば、切ない。
◇◇◇


さて、そんなわけで、クリスマススペシャル、お楽しみいただけましたでしょうか。

何度読み返してみても、あんまり、傑作ではないですが、

今のわたしに、やれるだけのことは、やってみました。

そもそも、

恋愛経験の希薄な人に、

恋愛物をかけ、と言う方が、無理です。

残酷です。

極悪、非道です。


主人公を、彼女側にしたのも、

彼氏側にしてしまうと、

感情が入りすぎてしまったり、(いろいろ、無駄に切ない思い出がよみがえったり) フィクションが、フィクションと、とらえられなくなってしまうおそれがあるので、あえて、女の人にしてみました。

自分の気持ちもわからない人間に、女の人の気持ちなど、わかるはずはありません。

だから、今回書いたことは、およそ、空回りでしょう。

世の女の人の、蔑みと、嘲笑と、哀れみを買うだけでしょう。

まあ、それを買ったとて、今更ながら、失う物はないのですから、
いいや、別に。

とにかく明日は、研究発表なので、今日は早く帰って、ふて寝、する予定です。

北海道の寒さの中で、きっと明日は、まぶたにしょっぱいつららができるでしょう。

それを朝ご飯にして、明日はがんばります。

次は、もっとどうしようもなく、くだらないの、書こうかな。

2007-12-24

コスモス(後編)

さて、今回はいよいよ完結編。

どうなることやら。

◇◇◇


わたしはふと、あたりが静かになったことに気づいた。

見ると、すでに外は暗くなっており、お客は私たちだけになっている。マスターの様子も、どこか所在なげだ。時刻は7時を回っている。もうじき閉店だ。

「帰ろうか」

わたしが立ち上がり、そう言うと、彼は大きな目を見張って、わたしを見上げた。その目はまだ、きらきらと輝いている。


オレンジ色の街路灯が照らす下を、私たちは並んで帰った。

わたしが話すことは、もう無い。

おそらく、彼が何か話してくれることもない。彼の思いは未だ、UFOがなぜ、わたしの記憶を消さなかったのかに食らいついているのだろう。

 あーあ。こんなことだったら、こんな話で誘うんじゃなかった。わたしは後悔していた。彼がどれほど熱っぽくわたしを見つめていても、彼が見つめているのはわたしの話した、わたしの話の中のUFOなのだ。

存在するかもはっきりしない、そんな物に向けられた瞳は、目の前に存在する、わたしのいくつもの努力や、唇に重ねたグロスの光にさえ永久に気づくことはない。

コーヒーの違いだって、たぶん。

UFOなんて、嘘だって、早く言ってしまうんだった。こんな切ない思いをするくらいだったら。
これじゃ、今まで、彼の、UFOへの愛情を丸一日、見せつけられに来たような物だ。

これは、嫉妬なのかもしれない。UFOへの嫉妬。ばかばかしい。

彼の心は、もはや、遙か彼方、1000万光年の向こうまでUFOを追いかけて飛んで行ってしまっている。人間のチカラでは1光年の空間すら、飛び越えられないというのに。

わたしは、空を見上げた。明るい町の夜空に、星はほとんど無い。空に見える唯一の星。あれは北極星だろうか。

歩いても、歩いても、北極星との距離は一向に縮まらない。それは天の同じ位置にあって、冷たい青い光を、瞬きながら、私に投げかけている。


前を歩いていた、マサトが止まった。

わたしも思わず、横に止まった。

ここは十字路。

彼の家は向こう。わたしはこっち。


「じゃ」

彼は言った。

「じゃ」

わたしは言った。

彼はしかし、そこから動かない。

わたしもそこに残って、彼の次の言葉を待った。



「UFO探しに、また、一緒に行ってくれる?」


なんだ、また、UFOなのか。またわたしは、努力して、あの切ない思いをしなければならないのか。

「UFOなんて、いないよ。わたしの言ったのも、すべてウソ」

わたしはもはや、うそをつきつづけるきにはなれなかった。

「そんな、あるかないかもはっきりしない何かを追い求めるより、あなたの目の前のことをもっとしっかり見つめたら?」

わたしは言い捨てた。

これでいいのかもしれない。これで、彼が今よりもう少しでも、普通の感覚の人になり、もっと普通に、人とつきあえるようになれば、元々、いい人だし、彼はきっと幸せになれるだろう。

わたしではない、別の女の人と。


彼はしかし、じっとそこに立っている。

自分の足下を見つめている。

わたしの言ったことがきつすぎたのだろうか。わたしはそれでも、彼があんまり動かないので、多少気になっても彼を起き捨てて、先に帰ろうと思った。

「待って」

彼の声にはっとした。


反省してくれるの?

考え直してくれるの?

やり直すの?

わたしをもっと見てくれるの?

彼はゆっくりとわたしの目を見て、言った。

「UFOは、いるよ」


わたしは、うんざりした。持っている物を投げつけて、さっさと帰ろうと思った。

くだらない、くだらない、くだらない。

ほんの一瞬でも、期待してしまった、わたしが馬鹿だった。

「でも、UFOはなかなか姿を現さない。」

しかし、彼は続ける。

「そこにいることはわかっているのに、そこに手をかけるすべが、見つからないんだ。」



...なんだ、わたしと同じなんだ。

お互いに、お互いをもっと近くに寄せ合うすべを知らないまま、どうしていいのかわからなくて、まごまごしていただけなんだ。

21、にもなって。わたしは思った。高校生にも、笑われてしまいそう。


わたしはふと、再び夜空を見上げた。

星の少ない空の上を、一機の飛行機がちょうど西から東へ飛んでいくところだった。

飛行機の両翼の赤い灯火が、滑るように、闇の中を進んでいく。


わたしはそれを、何とはなしに、目で追っていたが、あることに気づいて、思わず、彼の元に駆け寄ってしまった。

北に見たはずの、北極星はいつの間にか、見えなくなっていた。

夜の明るいこの町で、そもそも、北極星など、見えるはずは、無かったのだ。

コスモス (前編)

さて、クリスマス。

せっかくなので挑戦してみた。

以前から、Oさわに、

「恋愛物書いてみてよ」

と途方もないことを言われており、ずっとそれは棚上げにしていたのだが、
今回、恥を忍んで挑戦してみた。

しかも、意外性の追求のしすぎで、女性一人称にも挑戦。
太宰治に笑われそう。

だいぶ月並みで、おかしな話になってしまったが、(M-1グランプリ見ながら書いた物で)
まあ、聖夜の戯れ言と思って、許してください。

◇◇◇


「君が見たのは、きっとUFOだったんだよ」

マサトはわたしの目を熱っぽく見すえて言った。

話にのめり込むあまり、前かがみになりすぎて、コーヒーが胸元で傾き、こぼれそうになっている。

わたしは、気が気でしかたがない。

「でも、そんなの本当にいるの?わたしが見たのはそんな曖昧な物じゃなくて、もっとしっかり見たんだよ」


あたりにあらん限りの光をまき散らしながら、浮かび上がる巨大な物体。

まるくて、銀色で、てかてかひかるもの。

たちまち起こる猛烈な風。吹き荒れる砂嵐。



わたしは、それを見た、と彼に言った。


「UFOの意味知ってる?未確認飛行物体。だからそれはUFOだよ。そんな大きな物が飛びたてばもっと多くの人が目撃してもおかしくないはずだ。でも、どうだい?この喫茶店の店長だって、知らないって言ってたじゃないか。これはきっと普通の現象じゃない」

わたしとマサトは、わたしが見た物の確認のため、わたしがその物体を見た地点にほど近い、商店街に来ていた。この喫茶店は、その中でもやや高台にあり、もしかすると、わたしが見た物を見ているかもしれないと、立ち寄ってみたのだ。

「でも」

わたしは異議を唱える。

「わたしが見たのはだいぶ夜更けだったし、もう寝てたんじゃないかな。」

「でもね、UFOは」

マサトは全く意に介さない。

「多くの場合、それを見た人々の記憶を消していくらしいんだ。だから、ここの店長も、記憶を消されたってことがあり得るよ。きみは...、きっと幸運だったんだよ」

UFOに記憶を消されなかったことがどれほど幸運なことか、わたしには全くわからなかったが、それを語るマサトの目の輝きは先ほどより、いっそう増したように思われた。

少し胸元の開いたシャツの襟元から、彼の鎖骨と、胸元の一部が見える。

少しも男らしくない彼の、男性としての一面を意識してしまって、思わず、どきりとした。

あわてて目を上げれば、また彼の真っ直ぐな視線が暑苦しいほどに、わたしの目を射貫いてくる。


まいった。


わたしは自分の顔がじわっと熱くなってくるのを感じ、思わず目をそらし、手で、ぱたぱたと扇いだ。


マサトは大学の同学部、同期生だ。わたしは元々、あまり男の人とつきあう方ではなかったが、彼は男子の割には目が大きく、少年のような顔立ちであったので、比較的簡単に話しかけることができた。

つきあい始めてわかったのだが、彼は相当に変わっていて。自分の興味のあることにはすさまじい集中力を見せるくせに、食事や服装には一向に無頓着だった。わたしは以前、彼が3日続けて同じ服を着ていたのに気づいたことがある。彼にそれを注意すると、彼は意外という顔をして、

「別に汚れてもいないし、いいかな、と思って」

と言って平然としていた。

食べ物に関しても、一緒にお昼を買いにコンビニに行ったりすると、決まって、メロンパンと、野菜ジュースだった。彼に言わせると『少なくとも、死なないメニュー』なんだそうだ。

“グルメ”なんて回路は、彼の頭脳にはないらしい。

女の人への興味だって、あるのか無いのか、はっきりしない。わたしといるときも、他の女の子といるときも、男の人といるときですら、見ていると対応がほとんど変わっていないように思える。

わたしがいくら、ちょっと気合い入れてお化粧してみても、彼が良く着る服に合うような色の服を選んでみても、全く気づいていないようだ。

今日だって...。いつもよりきめてきたのに...。初めて、控えめにだけど、グロス、入れてみたりして。彼にとっては、脂っこいナポリタンを食べて、てかてかになった唇と大して変わらないんだろうけど。


「でも、だとしたら」


彼の声に、はっとする。


「UFOはどうして、君の記憶を完全に消さなかったんだろう。単に消しそびれたのか?でも、広い宇宙を渡ってくるような科学力のある宇宙人が、そんなミス、するかなあ...。」

彼はそういうと、前のめりになっていた体を元に戻し、腕を組んで、机の隅をじっと見すえたまま、動かなくなった。

作り物のおもちゃのように、あるいは小さな子供のように彼の動きはわかりやすく、表情から、内面のすべてまでも、読み取れてしまうように感じた。

いったいどういう育て方をされたら、こんな子供になるのやら。

親の顔が、見てみたい。本気で、そう思った。


実は、彼と二人きりで出かけるのはこれが初めてだった。もちろん、一緒にお昼を食べることくらいは良くあったけど、すべて、それらは学校での話。それらから、完全に離れて、プライベートで、彼と連れ立って出かけたのは、今まで一度だってない。

わたしは前から、いつか、彼とどこかへちょっと出かけてみたい、と思ってはいたのだが、彼はなんと言ってもこのような人だし、彼の方から言い出す見込みは全くない。そこで、ちょっとヘンかな、とも思いつつ、わたしの方から、彼に、今回の外出を誘ってみたのだ。

私自身、男の人と二人きりで出かけたことなんて、今まで数えるくらいしかなかったけど、たいてい、そういうときは、相手の方が持ちかけてきてくれたから、それが普通なんだと思っていた。

そういうときは、男の人は行く先から、食べるとこ、見るとこ、あらかた考えておいてくれて、わたしは何も考えずとも、楽しいお出かけになるように、十分仕組まれていることが多かった。

でも、今は、こっちが主導しなくてはならない。

何せ、相手はこの人だ。ほおっておいたら、また、コンビニでメロンパン、なんてことになるに決まってる。


わたしは、彼が大学のUFO研に入っていることを友達から聞いたので、昔、このあたりでそれらしき物を見たと言うことを彼に話したのだった。

すると彼は、驚くほど簡単に、その話に食いついた。

ちょうど、今日のように、目を黒真珠のようにきらめかせて、顔を、鼻と鼻がこすれるくらいに近づけて。

教室でその光景を目撃した友人は、私たちが、キスすると勘違いしたらしい。びっくりして、目をまん丸に見開いていた。わたしはそれを見て、ますます恥ずかしくなり、思わず赤面してしまった。


わたしは彼と、このあたりに来ることが決まってから、おいしいお店を調べ、食べ歩きができそうな小さな屋台が、意外にたくさんあることも知った。

この喫茶店も、そのいきさつで、目をつけておいたところだ。

お店で豆を煎る、自家焙煎のお店。
遠く県外から、毎週通うお客さんもいるという、隠れた名店。

見つけたとき、いいお店を見つけた、と、一人で喜んでいた。


今まで、自分が男の人にしてもらっていたことを、今度は逆に、こんな男の人のために行うことになるとは、夢にも思わなかった

彼は、そのことを知っているのかな。


わたしは彼の冷めかけて、湯気を出すのも忘れたコーヒーを見て、思わず、小さなため息をついた。

これだけ、努力したのだから、

せめて、一言でも言って欲しい。『ここのコーヒー、すごくおいしいね。』

とでも。

彼はわたしの気持ちを知ってか知らずか、まだ腕組みをしたまま、机の隅を見つめている。しかし、これほど見つめた机の隅すら、彼の記憶には何の印象も残さないのだろう。今日のわたしの、努力のように。

2007-12-20

逃避行 (冬日行?)

【今日やったこと】

久しぶりのベクターコンストラクション。

終わりましたと先輩に言ったら、

相変わらず、はええとびっくりされた。

苦労、したからねえ

◇◇◇

冬になった。

あたりはついに、雪に覆われ、圧雪でつるつる。

どこへ行くにも、寒い。

でも、

どこかへ行きたい。

特にここ数日、仕事が忙しくて、余り遠出していなかったので、
ここらでまとめて少し遠くまで行きたいと思ってはいる。

しかし、年末という物は、何かと私からお金を奪い、すでにすっからかん。

あまり、贅沢に旅行もしてられない。

そこで考えたいくつかの案。



1.しみじみ飲もうぞ!札幌市内の酒造会社、千歳鶴の酒ミュージアム観光(無料)

2.寒い冬はこれ!札幌市街地、温泉、銭湯ツアー (2000円もかからないはず。さすがに定山渓までは行かない)

3.ちょっぴり背伸びしたい君に!ジャズバーでハスキーにスコッチを (店を選べば安く済みそう。)

4.何軒あるんだ?札幌市街マクドナルド巡り (super size me!; コートいらずの fatty body を get!)。

5.グラスとキャンドルがロマンチックに照らす小樽で、クリスマスに単騎突撃 (自爆;某市古町以来。我、戦場に骨を埋めん。)

6.冬景色周遊。あの場所は、今!(夏に行ったあの場所に、この時期になぜか訪問!遭難の危険あり☆)



4 は無理。命が惜しい。

2 も、そこまで老け込んじゃいない。

1, 3,6 かな現実的には。

5、も否定できない...。

2007-12-11

もんどころからおでんわ今すぐ

【今日やったこと】
またウェスタン。

昨日やったのが、なんだか成功を予感させる、意味深なバンドを呈してくれたので、

喜び勇んで追試。

今度こそ。


◇◇◇


最近、どうしようもなく忙しい。

ここ一ヶ月ほど、帰るのはいつも午前様。

いかんせん、相手は培養細胞で、一応生きているため、そいつのコンディションにあわせて、
一定期間のうちに、必要な実験をすべて済ましてしまう必要がある。

でも、一日はいつでも、86400秒な訳で、こちらの都合に合わせて伸び縮みしてくれるでもなし、結局こちらの睡眠時間を削って、対応つかまつるほか無い。

とはいえ、細胞も生きているなら、こっちはもっと生きているわけで、

睡眠時間を削りすぎれば、あり得ないミスがたちまち吹き出し、かえって手間が増える。

その辺のかねあいが難しい。

最近は起きれば、もう午前9時。

そらそうだ。寝たの4時。

学校に着くのはお昼近く。そしてまた、帰るのは午前2時

悪い循環。

この、忙しい時期が過ぎれば、また、元のもう少しは人間らしい最低限度の生活に戻れるんだけど。

こんな生活はできるだけ、続けたくない。朝起きると、水戸黄門の再放送なんて、いやだ。
(でも昔のやつは、意外とおもしろい)

寝るときには夜中の通販なんて、もっと嫌だ。
(ビリーズブートキャンプは、人より先に知っていた)

せめて、めざましテレビがやっているうちに起きたい。

ニュース23が終わる頃には寝たい。


ぼくも、人間になりたい。

2007-12-10

夜を越えて (Vol de nuit)

【今日やったこと】
モノクロの作った抗体に対してウェスタンブロット。

実はもう、一度試していてそのときは不手際のためうまくいっていない。

さて、

どうなることやら。


◇◇◇


飛行機に乗った。

夜の。

今まで、何回か飛行機に乗ったことはあったのだが、
夜、本当に真っ暗になってから乗ったのは初めてだ。

夜の滑走路は驚くほど真っ暗で、その漆黒の闇の中に、色とりどりのランプが
瞬いている。

空には星はない。

でも、ランプは、色ごとに列をなし、暗闇に、光の道を紡いでいる。
"ここをはしれ”と、光は無言のうちに誘導している。

天が地なのか、地が天なのか。

このような逆転した光の世界では、その感覚すら危うくなる。
気をつけないと、いずれ空へ落ちていってしまいそうになる。

飛行機の巨大な体は、その光に促されるように、おずおずと、滑走路に身を据える。

子供が泣いている。キャビン・アテンダントが、おろおろしている。

しかし、離陸のための手続きは、粛々と続く。

子供が泣いている。

チーフ・パーサーのアナウンス
"本機は、定刻どうり離陸いたします。皆様、安全のため、ランプが消えるまで、シートベルトは外さないようご協力ください”

ポーン、ポーン

機内に警報音が流れる。

エンジン音が高まる。

エンジン音はやがて、ごうごうという爆音に変わり、
この優雅な機体の飛行機には似つかないほど暴力的な音を立てて、加速を始める。

窓の外に見えていた、いくつもの光の羅列は、やがてそのあまりの加速のために、一本の線となり、窓の外に流れている。

今は、まだ、地上にいるのだろうか。それともすでに、宙にあるのだろうか。

この暗闇では、それすら、定かでなくなる。

ただ、足下から伝わってくる、車輪の振動だけが、それがまだ、地面に縛り付けられていることを伝えている。

やがて、

その振動から見放されたかのように、機体は突如として切り離され、ふわりと、宙に浮き上がったのを感じる。前屈みになるような重力。

その重力もしだいに減弱し、機内には一瞬の静寂が訪れる。

ベルト着用サインが消える。
キャビン・アテンダントがあわただしく動き出す。

そのとき、ふと、窓の外を見れば、

そこには、すでに、我々の物ではなくなってしまった、一面の星くず。

人の営み。

いつしか子供は泣きやみ、お父さんのおなかの上に抱かれて、窓の外の
銀世界を見ている。

隣では、その子の幼い姉が、にこにこ笑って、母親の顔をのぞき込んでいる。


機体はやがて、進行方向右に傾斜し、くるりと街の上空を旋回すると、

やがて静かに、別れを告げた。



蛇足;
飛行機が夜間離陸し、暗闇の中で見える、いくつもの街の灯の上を通り過ぎる描写を、
飛行家だったサンテグジュペリは "(暗闇から獲得し) 我々の物になる”あるいは" (遙か彼方へ通り過ぎた街は) すでに我々の物ではなくなった”といった表現をしている。

サンテグジュペリはすごく好きで、特に"夜間飛行"は何回も読んだが、今回やっと、その表現を追体験できた気がしている。

そういえば、この本をおそらく読んでいる (文庫版の表紙を書いている) 、宮崎駿の書いた詩に、

"たくさんの灯がなつかしいのは/あのどれか一つに 君がいるから”(君をのせて)

と言うのがあった。

サンテグジュペリの有名な言葉に
"砂漠があんなに美しいのは、どこかに井戸を隠しているからなんだ" (星の王子様)
というのもある。

そんないい言葉が、あの夜の飛行機の窓を眺めているとぐんぐん伝わってきて、
なんだか酔ったような、心地よい気持ちになって、いつしか寝てしまった。

できれば飛行機は、また夜に乗りたい。

2007-12-02

その色はブルーブラック

【今日やったこと】
モノクロのクローンが、もうずいぶん育ってきて、

抗体も順調に作ってくれているようなので、

勢い余って抗体染色。

病理学の研究室なので、

技官さんに組織片を渡せば、

あっという間にパラフィン包埋して、切片化までしてくれる。

こっちはそれを脱パラして、染めるのみ。

プロってすげえ。

◇◇◇


万年筆を買った。

先日、日用品を買いにロフトに行ったら、

そこの文房具売り場の片隅に万年筆コーナーがあって、ちゃんと専属の店員さんまでつけてあった。

ショーウィンドーの中の万年筆はどれも、新品でありながらアンティークのような気品を備えていて、地味な黒っぽいペン軸とは対照的に、ペン先だけが、金色に輝いていた。

自分は、文房具がどうやら好きなようで、文房具屋に行って、使いもしない物を買い、後で後悔することが、やたら多い。

そんなわけだから、この万年筆というやつも、いつかはいい物が一つ欲しいと夢見ているが、その気品に見合う、高貴なお値段を伴っていることが普通で、とても一介の貧しき学生には手が出ない。

何より、この現代、ワードプロセッサなる物の進出により、ボールペンですら、もう存在価値を失いつつある中で、より歴史ある、すなわち旧式の万年筆なぞ、象徴的価値以外の何物も持たないような気がしている。

でも、これだけデジタルな世の中でも、さらに、クオーツ式、電波式の方が、圧倒的に正確だとしても、ゼンマイ仕掛けのクロノグラフがもてはやされるように、こういう小物の象徴的価値は馬鹿にできない物がある。実際、自分も、グルメだとか、服だとかいう物にはいっこうに興味はないくせに (頭の先から足の先までユニクロづくしなのは、私か、ユニクロの店員さん位のものだろう。おそらく店員さんも、普段は別なメーカーの服を着ているのだろうが) 、こういう古めいた小物にはなぜか弱い。

手に入れたとしても、自分に似合うかどうかは、また別の問題だが、それでも、いつか、何らかのこだわりの一品を手に入れたいと思うのは、このような品に関してのみだ。

そんなわけで、万年筆も、使う、使わないは別として、いつか手に入れたいと思ってはいるのだが、前述のように値段の点で全く手が出せないでいた。

しかし、万年筆は、単なるお高くとまった文房具ではなく、今も生きているのだ。

その、ロフトの片隅の万年筆コーナーのさらに片隅に、壁掛けからぶら下がるようにして、おもしろい形のペンが並んでいた。見ると、それらはすべて万年筆。しかし、クリアブルーやクリアグリーンや、レッドと言ったカラフルな色遣いで、一見すると万年筆に見えない。

しかも値段は1500円程度。ショーケースの万年筆の1/10だ。

私は、そのデザインがおもしろかったのと、万年筆を使ってみたかったこともあり、どうせ安物、と覚悟しながら、そのうちの一本を購入した。

家に帰り、早速それでノートの切れ端に落書きしてみると、思いの外書きやすい。

自分はペンの持ち方が悪いため、ちょっと物を書いただけで、指先がすぐ痛くなって疲れてしまうのだが、このペンは力を入れる必要が無く、いくら書いても手が疲れなかった。

安物にしては、やりおる。

あとで、ネットでそのメーカーを調べてみて、合点がいった。

その万年筆は、ドイツあたりの、万年筆のちゃんとしたメーカーの一つ“ペリカン”社製で、学校教育向けに、子供を対象として作られている“ペリカーノ ジュニア”という物だった。

子供向けでありながら、その作りはしっかりしていると評判で、実際、楽天あたりで書き込みを少し見てみると、大人の使用者もかなり多い様子。これなら使っても、余り恥ずかしくない。

しかも、ご親切に、正しいペンの持ち方を補正できるように、つかむところのラバーに指を置く位置の印までついている。まさに、私向きだ。

万年筆のよく使われるインクは、“ブルーブラック”とか言うそうで、ボールペンの黒を想像していた私にとっては、あまりに青色でびっくりしたが、どうせ、いつもと違う気分で物を書きたいときに使うんだろうし、それでもいいかな、とは思っている。

いつか、ショーケースに収まった、きらきらした万年筆を買える日まで、この、安い、でも手堅い品は、自分の慰めになってくれそうな気がする。

実際高いやつ買っても、もったいなくて、こっち使うかも、しれないけど。