2008-04-17

春というもの

春、僕らは、無数に咲き誇る桜の花の下で、
互いに喜びを分かち合い、朗らかに微笑む。

(花は、植物の生殖器に相当する。
花粉は、精細胞を運ぶ、入れ物だ。)

その足下にはたくさんのタンポポの花。
これはよく見れば、いくつもの花の集合体。

(僕らは春という、植物たちの巨大な性交渉の渦のただ中にいて、
それをそれと認識しないまま、朗らかに微笑みながら、散歩している。)

一匹のコガネムシが小さな花の奥底に入り込んで、
花粉まみれになりながら這いずり回っている。

道ばたに咲く、花に顔を近づけて、その香りを愛でる人がいる。
その花を、じっと見つめて微笑む人もいる

花屋には、たくさんの花が売られている。
たくさんの植物が、その店先には飾られている。

誰かがくしゃみをした。

きっと、鼻に、スギの花粉でも、
入ってしまったのだろう。


花というものは、人間が春を感じるのに、
無くてはならないものだ。

ある者はそれを愛で
ある者はその匂いをかぎ
ある者はそれをじっと見つめることで
銘々の春を謳歌する。

向こうに座った男は
傍らに座った一人の美しい女性の髪に
自らの手で摘んだ一輪の白い小さな花を挿し

よく似合うよ、
と言って、穏やかに笑った。

幸福そうに微笑む彼女の髪には、
一輪の生殖器が、こぼれんばかりに咲いている。

花切り男

チューリップの花を
切って歩いた男の
行為は許せないにしても

その時の、その男の気持ちは
何となく想像できてしまう。

春は、格差の季節。

春を喜べる物が、笑顔を振りまく一方で

置いてけぼりの春を、苦く噛みしめ、地中に潜る人間もいる。

いつか、芽が出るとは
誰も保証してくれないので

せめて、目に見える範囲からでも
春をつぶそうと、
彼は夜な夜な
春をつぶしに、土の中から、這い出す。

そうして、彼の周りだけでも、
春が遅れれば、
彼の焦りも、苦しみも、

束の間、解放されて
彼は、終わることのない、冬、あるいは、秋の季節の中で
静かに、まどろむのか。

そんな局所的な遅延など、
大きな春のうねりの中では、焼け石に水に過ぎないのは
男自身が最もよく分かっているだろうが、

そうせざるにはいられない、
何か脅迫的な物に突き動かされ、
男は夜な夜な花を切る。

野菊も、タンポポも、
その光景を確かに見ていたはずなのだが、
花の先を閉じたまま、
そのことについて、何も語ろうとはしてくれない。

彼らは、数万年の昔から、
春に仇なす愚かな人間達を、何度となく見てきたから、
今更、そんな物を、何も珍しいとは思っていないのかもしれない。

ただ、春先に吹く突風か、
突然の雨か
遅霜位にしか、その災難を
考えてはいないのかもしれない。

人間が植えた花を、人間が摘み取っているうちには
彼らにとって、野菜の収穫と
何ら代わりのない光景に映るのだ。

ただ、切り取られた花こそ、災難であるにしても。

衣替え

【今日やったこと】
ウナギの解剖も、今日で終わり。

振り返れば、懐かしい
生臭い、血の香り。

皆さん、ご迷惑、おかけしました。
◇◇◇


春なので、ブログもデザイン変えました。

だいぶシンプルに、明るく、なったと思います。

タイトルのバックは、
知る人ぞ知る、『あれ』です。

ちなみに、ウナギのタンパク流してます。
こうしてみると、なかなか、意外に、
アーティスティックでしょ?

髭面の赤児

欲しいものが、手に入らないとき

初めはみんな、だだをこねて、お母さんを困らすところから始まる。

次に、それは、人から、力づくで奪うことに繋がって、

それもダメだと言われると、

自分で何とか手に入れようと、努力するようになる。

でもそれは、必ずしも、結果が伴うとは
限らないから、

そうなると、いずれあきらめてしまう。

それでもあきらめきれないと
人から、力づくで奪おうとする。

その力もないときは、

泣いてすがる、人もいる。

こうして、あきらめと、精進とを行き来しながら、
人はそれでも、顔だけは一著前に大人になって、
ひげが生えたり、しわが寄ったりしているけれど

その中身は、
だだをこねたくなる、赤子の心を
必至にあやしているだけに、過ぎなかったりするのだ。

只、赤ちゃんに、ひげや、しわは似合わないだろうという
常識的な虚栄心にさいなまれて、
だだをこねる勇気もなく、

思わず唇をとんがらせたくもなるけれど、
それだって、ひげには似合わないから
しょうがなく、眉間にしわを寄せて

男は、男の振りをして、
今日も会社へ通っている。

時々は、はいはいもしたくなるけれど
それでは踏みつぶされてしまうから懸命に二本の脚で立って、
ふらふらになりながらも、それでも前に進むのだ。

こんな男を
男らしくないという
女がいたとしたら

かわいそうに、と言ってあげたい。

彼女の男は、必死になって
幼い頃、父母に教えられた
男という架空の人物を
熱心にまねしようとしているだけであるのに
彼女はそれを当たり前として、ほめてくれさえ、しないだろうから。

今日も、苦い酒に、顔をゆがめながら
男の瞳は幼い頃に見た
スーパーの付くヒーローの
たわいのない夢を見ている。

落下

空白になった心に

去来するものは

いつかの、食事の風景。

その時の表情。

浮かない顔

その意味を、深く考える勇気も持たずに

僕はその瞬間に酔いしれ、

笑い、はしゃぎ、君を見てなどいなかった。

僕はあのとき
自分のために恋をしていた。

そこに本当に、愛情があったのなら、
あの浮かない表情の裏側にあるものを
素直に聞き出す、実直な気持ちを
もっと持っていても、おかしくなかったはずだ。

僕にはそれができなかった。

できなかったから、
その結果として
君が正直に事実を突きつけてくれるまで、
僕は至らぬ夢を見て
それを次第にふくらませ
生活に、支障が出ていたんだ。

無くした後の
自分の感じた
身の軽さに
今まで背負っていた者の
重さと、暖かさを
感じて

いつもより、早く起きて
まだ明け方の太陽が顔を出したか出さないかのうちに学校へ行き
そうして、仕事を始めたんだ。

一日は、普通に過ぎて
普通に暮れ
普通に夜になり

世界の運行に、僕は必要ないと、確信するに至って、
昨日の僕が、7階のベランダから、笑って宙へ舞うのを見た。

あんまり楽しそうだったので、僕も一緒に行こうか考えたけれど
君へ、質問すらできなかった
意気地無しの僕だから

ベランダから、静かに、
夜景を見るだけで
その夜は、そのまま、眠ってしまった。

階下には落っこちた僕のトマトのような血しぶきが
鮮やかに広がっていた。

暗くて、良くは見えなかったけれど
僕は砕けた頭のまま、それでも笑っていたように見えた。