2008-03-31

原子は踊る

ヤモリの足の裏には
いっぱい毛が生えていて
それを使って、ファンデルワールスというチカラで、
硝子に張り付くのだという。

それは、そもそも、
完全にプラスにも、マイナスにも属せない、優柔不断な分子たちの、宙ぶらりんな遠隔作用。
なんだかちょっとプラスみたいな原子と
なんだかちょっとマイナス気味な原子が
すずろに引き寄せあってみたりするような力

そんな曖昧な原子の踊りの上で
ヤモリはガラス戸に張り付き、平気な顔で澄ましている。

質量に囚われて、地を這いずる人間を、
斜め90度の世界から、静かな目で見つめている。

○▲□ (まるさんかくしかく) - 11

次第に近づいてくると、男の人はみるみる大きくなったような気がした。

背が高いばかりでなく、体格もよい。筋骨隆々といった感じだ。髪は短く、まだ30代に行ったか行かないか、と言った風貌だ。男の目から見てもかっこいいと思ってしまうほどの好男子だった。これでサーフィンでもやっていたら確実に、女の二十人や、三十人、ついて回るに違いない。

男の人は僕のすぐ隣まで来た。そして、呆然と見上げる僕のスコップをひょいと指さし、

「(^^)/、(^_^)、...(^_-)」

と言った。

何と言ったか聞き取れずに僕がなおも唖然としていると、彼は自分のしゃべったことが通じていないと分かったのか、さっきよりもゆっくり、はっきりとしゃべった。
「曽のスこっぷをおらに課してクレネ江部か」
僕はそれでも、何を意味しているか分からなかった。

彼はそれを見て思わず、参ったというように高く整った鼻からフン、とため息をつくと、僕が持ったスコップを奪って、穴を掘り始めた。

彼のたくましい背中は汗に濡れ、白いTシャツ越しに盛り上がったたくましい筋肉が見える。

気がつくと、カタクリもシイタケもいつの間にか僕のそばにいて、その光景を見守っている。

彼女らの目は、普段僕に向けられている目とは、明らかに違った。

冷静を装っていても、その瞳は、彼の引き締まった背中の筋肉の絶えまざる蠢き以外の何物をも見ていないことは、明白だった。僕が手を変え品を買え、あれやこれや、数少ない、自分にできることを精一杯して、男を売ろうとしていた矢先、彼は背中だけで、二人の女性を落としてしまった。

彼の仕事はすばらしく、穴はあっという間に掘り上がった。

そして、傍らの子鹿の死体を土に汚れた軍手でひょいとつかみ挙げると、穴の底に静かに横たえ、掘った土を戻した。

彼はそこで、僕らの方を振り向いた。よく日に焼けた引き締まった顔に、玉のような汗がきらめいている。彼はそれを、Tシャツの裾でぬぐった。その際、彼の格子窓の様に割れた腹筋が、ちらりと見えた。

ずきゅん
わずかに開いた格子窓の裏から、僕の両脇の二人の女は狙撃されたように思った。
おそらく二人とも、もはやこの世の者ではない。
目は、遠くあちらの世界へ逝ってしまっている。

「ナ二価、葉カい始でも奥部下」
「ええ、そうね。」
シイタケとカタクリはそう言うと、甲斐甲斐しく、近くの小振りな石を拾って、彼に渡した。
彼の大く黒い、グローブのような手の前では、シイタケの手は、赤子の手のように白く小さく見えた。

石を渡すため、その手にかすかに触れた瞬間、シイタケの体は電気が走ったかのように、ぴくりとふるえたようだった。

彼はその大きな手の中に、彼女らの選んだ石を入れると、それを先ほど子鹿を埋めた場所へ置いた。

どうやら、墓石にするつもりらしい。

そして彼は大きな手を合わせて、目をつむり少しの間祈った。大の男がそう言う行為を取るのは、健気ですらあった。

シイタケとカタクリもそれにならい、しっかりと手を合わせて祈っている。男を上げる企みも完全に失敗し、僕はもう、どうでもよくなっていたが、彼女らの手前、この上、更に優しさのない奴と思われるのは避けたかったので、とりあえず手を合わせて、祈るふりをした。

やがて男は立ち上がり、僕らを静かな目で見つめて、
「んでわ。」
と軽く会釈をして去った。
シイタケとカタクリは手を振って見送った。相当に名残惜しそうだった。


車に戻り、僕らは再び村に向けて出発した。

彼女らは、先ほどの男についてかっこいい、かっこいいと興奮しきゃっきゃと騒いでいた。

「こんな山奥にも、」
シイタケは明らかに鼻息が荒い。
「あんな、いい男がいるとは。」
「すごかったね、特にあの、背中!」
カタクリも、なんだかうれしそうだ。
「そこ~?あたしは、あのちらっと見えた腹筋かな?」

こんな筋肉談義で盛り上がれるのは、女の人か、ボディービルダーぐらいのものではないだろうか。男の体はたちまち鶏のように分解され、胸肉だ、もも肉だ、手羽先だなどと、ごく限られた箇所ごとに吟味される。挙げ句の果てに、もも肉好きだけど、胸肉はそんなでもない、と言う輩が出てくる点まで、よく似ている。

腹筋はやっぱり割れてる方がいいよ。

私は、ちょっとお肉が付いているくらいの方がカワイイと思うけど。

やだ、もー、ミズハちゃん、そう言う趣味なの?
でもあの人、腕もすごかったよね。

先ほどの彼は、すでに彼女らのまな板の上で、手足と胴体部とに、ばらばらに解体されているようだった。そのうち、耳の形やら鼻やら指やら、より詳細な部分の解析に入るのだろう。

僕は決して出てはいないが、主張もしない自分の腹筋を思い、スこっぷを使いこなせなかったこの二の腕を思い、何より、これほど一緒にいても、男として見向きもされないことを思って、いたたまれなくなったので、話題を変えた。

「でも、何で、あの人のしゃべったことが理解できたの」

シイタケも、カタクリも、突然僕から向けられた質問に、一瞬きょとんとしていたが、
「確かに聞き取りづらかったけど、何となく言いたいことは分かった。」
とカタクリが言って、シイタケも、うんうんと、うなずいていた。

「でも、アカネちゃん、あの男の人に石を渡したとき、なんかあこがれの先輩にボールを渡すマネージャーみたいだったよ」
カタクリがそう言うと、シイタケはでれでれと笑って
「そう?っへえ、ちょっと高校時代を思い出したかな。一瞬、自分がどっかにいっちゃいそうだった」
えー高校の時、何部?マネージャー、だったの?
女子バスケの選手だったんだけど、男子バスケにあこがれの先輩がいて...。

いつの間にか、この二人はすっかりうち解けてしまったようだ。
僕一人、すっかり自信をなくして、ふてくされ気味に、窓の外を見ていた。

山は、深さを増し、道路の下には、渓流も見えだした。この川沿いにしばらく走った先は大きく開けており、広々と田畑の続く場所に出る。

そこが目的地の星見村だ。

僕らは蠅と同じものを食べている

30以降の自分の人生が、

全く見えなくなっていることに気づいた、今日。

小さい頃は、大人になったら、とひとくくりにされていた時間が、

今では手に取れる具体になって、

僕らの前に突き出されているというのに、

僕はそれにふれるすべを知らない。

ただその周りをぶんぶん飛び回りながら、着地点を探している一匹の蠅に
自分と同じ物を 見いだしてしまうのだ。

(やがて着地した後も、
手を摺り、足を摺って、いくつもの目をあたりに配って、
僕は生きていくのだろうか。)

はえたたきが飛んでくる
殺虫剤は改良される

人間は、自分と同じものを食べる生き物は、みんな嫌いだから、
それを殺す方法ばかり思いつく。

この鈍臭い生き物が進化の末に獲得した、思考という停止時間を蠅はあざ笑うように
メビウスの輪を空に描いた。

リスペクト・イェルネ

【今日やったこと】
裏切り者に制裁。
再び、トランスフォーム。

今度こそ。

約束を守ってくれた方には、
甘い甘いLBメディウムを浴びるほど飲ませてあげました。

喜んでる。OD600 上がってる。

もうすぐおやつのIPTGもあげるから。

◇◇◇

イェルネという名前は、免疫学を研究する人にとって、
一度は耳にする名前だ。

彼自身が、優れた発見をしたわけではない。
見事な実験をするわけでもない。

しかし、彼の唱えた免疫学を理解するためのいくつものモデルは、
そのままの状態では、確かに現実ではないにしても、
それを全て否定することができないほど、美しく、哲学的だ。

抗体が、抗体の抗体を作って、それが抗体を作らせる。
そうやって、全ての抗体が互いに拮抗しているところに、
よそ者が入ってくれば、拮抗関係が乱れて、それに対する免疫応答が起きる。

簡単に言えば、これがイェルネの有名な仮説、『イディオタイプ・ネットワーク』仮説だ。

バランスを取っていた物が崩れたとき、それは大きな反応を起こす。
一種の積み木崩しだろうか。

これそのものが、現在の免疫学の中心理論というわけではない。
細かいところは、現実と離れている。
しかし、この理論の"信奉者"は世界中に少なからずいて、
この発想は形を変えて未だに生き続けている。

そのほか、この人は哲学の本を読みあさったり、
信じられない位膨大な熱力学の計算の果てに理論を証明しようとしてみたり、
城に閉じこもったり、
偏屈を画に描いたような科学者だ。

ただ、こういう生き方を、カリスマと呼ぶのかもしれない。

と言うわけで、先ほどアマゾンで、近日発売の、
『免疫学の巨人 イエルネ』と言う本を発注してしまったわけです。
5000円位するけど関係なし。

お布施だと、思っております。

ほめて育てよ

先日、O沢氏にお褒めいただいた
恥作『がれきの城』を、
調子に乗ったわたくしは、
ネット上で偶然見かけた某同人のサイトに投稿したところ。
お褒めの言葉をいただきました。

そのサイトは、書き込みを見ていても、外の人にはとても親切に対応してくれるところのようだったので、真っ向からこき下ろすことはないだろうという気持ちで書いたこともあったんだけど。

ほめられると分かっていても、ほめられるのはうれしい物だ。

図に乗りやすい人間には、毒になることもあるかもしれないが、
毒も、クスリになることはある。

この短い人生の内に、
本業に関係のない、
本か、詩集を出せたら、
あの世でも、自慢できるかねえ。

図に乗りやすいわたくしは、すでに、本業を棚に上げて、
そんな夢を描いているのであります。

2008-03-30

○▲□ (まるさんかくしかく) - 10

近づいてみるとそれは、小さな、まだ幼い鹿の死骸だった。

「かわいそうに。」
「こんなに、小さいのに」
シイタケとカタクリは口々に言った。
子鹿の死骸は、顔の形はそのままだが、足はおかしな方向に曲がっていた。口と鼻に、わずかに血が流れた跡があった。

「うちらが引いたんでも、なさそうだ」
あたりに飛び散った血はもうすでにすっかり乾いていた。
腐敗はしていないことから、まだ死んでそう時間はたっていないのだろう。

「でも、つぶしちゃったから、なんか罪悪感を感じる」
シイタケが、珍しくしょげていた。確かに、子鹿の胴体はすっかりつぶれてしまっていた。

「ねえ、真島君、」
脇で見ていたカタクリがこちらを向いた。
「これ、ここには放っておけないよね。いつまでもここにあったんじゃ、また踏まれちゃうだろうし。」

確かにそうだ。この場所は道路に起伏があり、この死体は小さな坂を登り切って、少し過ぎたところにある。ドライバーにとってはよけきれない場所だ。

「せめて、埋めてあげよう。」
シイタケがそう言った。彼女は車に戻るとトランクの中をかき回し始めた。

しばらくそうしている内に、中からスコップが出てきた。
この地方は冬場によく雪が降るため、車に乗る前に、雪かきが必要になる。だから、大抵の車にはスコップを積んである。

彼女はそれを、夏が近くなった今でも、積んだままにしていたらしい。

彼女はその、先の赤いスコップを持ってこちらにまた戻ってくると、
僕にはい、と差し出した。
「あの辺がいいんじゃない?」
彼女はそう言って近くの何もない地面を指さした。

こういう仕事はなぜか自然と、男に回ってくる物だ。

僕は決して体格のいい方ではない。中学くらいの時には、ごく普通の女の子と腕相撲をやって、見事に負けたことがある。

さすがにあれからまた少し背も伸びたから、今はそう言うことはないだろうが、体力には自信がないのは変わらない。

だが、まさかだからといって、嫌がってシイタケにやらせるわけにも行かない。カタクリの手前、男らしいところを見せる場面ならどんな小さな場面でも、有効活用する必要がある。ただでさえ、勉強、スポーツ趣味特技、何をとってもダメなのだ。ここを捨てては、本当に、見せ場はない。

僕はスコップを手に取ると、何も言わずに、シイタケの指し示した場所へ向かった (男はいざとなると、ぶつくさ言わない物だ) 。そこはガードレールの裏側のわずかな盛り土の部分で、掘るのはさほど難しくなさそうだった。僕はスコップで死体をすくい上げ、そこをどかしてから、早速掘り始めたが、作業は思ったより大変だった。子鹿とはいえ、この時期になると、結構な大きさがあり、穴もその分大きくしなくてはならない。初夏の太陽はその間に、容赦なく照りつけ、外出を知らない僕の白肌を焦がした。

額から、背中から、脇の下から、汗がにじみ出るのを感じる。

カタクリはどうしているのだろうと、仕事の手を休め、後方を見ると、シイタケと並んで、開け放たれた車の座席に腰掛けていた。ちょっと縁側に腰掛ける、と言った格好だ。二人で何か話しているようだが、僕の方を気にしている素振りは全くない。

僕は、一人、損した気持ちを抱えながらも、それでも途中で投げ出すわけにも行かず、掘り続けた。


しかし、作業は一向に進まない。背中側になっていて実際は見えないが、シイタケやカタクリからの、『まだ、おわんないの...』と言う無言の圧力を、僕は次第に感じ始めた。

これでは、穴を掘っても、大して面目は、保てそうにない。
僕はなおさら損した気持ちになった。

そこへ、不意にエンジン音がして、一大の軽トラックが後続車として現れた。しかし、ハザードランプを付けたシイタケの車に気づいたのか、その後ろで止まった。

運転手が降りてくる。

汚れた白いTシャツと作業ズボンを履いた、背の高く色の黒い男の人だ。

この辺の農家の人らしい。
車の後ろに、大きな農業機械のような物を乗せている。シイタケ達はあわてて車を降りて、降りてきた男の人に話しかけた。事情を説明しているようだ。男の人は、日に焼けた太い腕を組んでそれをうんうんと聞いていたが、やがてこちらに向かって歩き始めた。

概日

【今日やったこと】

大腸菌は、僕を裏切りました。

彼らは、自分たちは裏切ったつもりはないと、言います。

君が勝手に期待して、勝手にその過ちに気づいただけだろう、と。

僕は言いました。
じゃあ、どうして、先に言ってくれなかったんだ。
言う機会は、いくらでも、あったじゃないか。

彼らは言いました。
僕らと、君とは、そう言うことを話す関係じゃないと、思っていたから。

僕は、言葉を失いました。

心の中には、実際、言いたいことがたくさんあって、太陽の表面のように、
時々プロミネンスを吹くのですが、それは言葉でありながら、僕の声音をわずかに震わせるだけで、実際の言葉になることは、無かったのです。

実際彼らは正しいと思います。
だからこそ余計に、僕の渦巻く怒りは、目標を見失っていました。

僕は、無言のまま、次亜塩素酸の瓶を取りました。

やめろ、やめろ、と彼らは言いました。

僕はその瓶のふたを開け、数千倍に希釈した液体を、ビーカーに張りました。

そして、

さよなら

と言って、彼らをその中に沈めたのです。

僕のことなど、忘れてしまえばいい。
君は君の幸せに生きたんだろう?

僕は心の中で彼らにそう語りかけていました。

彼らは初めのうちは、その水の中でもぶくぶくと泡をはいていましたが、
やがてひっそりと静かになりました。


次の日、来たときにはもう、彼らはすっかり変色していました。

次亜塩素酸の中で、プラスチックディッシュだけが、クリスタルのように
朝の光の中で輝いていました。

これ、片付けますか?と技官さんが言うので、

はい、お任せします。
と僕は答えました。
◇◇◇


人間の体内時計は25時間周期だという。

そのせいか、近頃、生活のリズムが壊れてかなわない。
どうも、原因は24時間しかない一日の内に、
それ以上の仕事やら、趣味やらを持ち込んでいるためらしいのだけれど。

考えずに一日のしたいことをしていると、あっという間に、24時間を飛び越えて、
本来の25時間の一日を生きてしまっていることに気づく。

どちらが、自然な生活なのか、自分には分からない。

きれいな人を前にしたら

もう一つ。

美人は、書きすぎると、美人じゃなくなってしまうが、

やっぱり、見すぎても、だんだん、美人じゃなくなってくる。

きれいだといわれる人はそれぞれ、特徴的な部分を持っている。
集まりとしてはきれいだけど、部品としてもそうかといわれれば、そうでもないこともある。

それを使い分ければ、美人を美人じゃないと、言いのけることも、できる。

鼻の頭ばかりを、見ていればいいだけのことだ。

2008-03-29

書く苦労

【今日やったこと】
大腸菌と仲良くやっています。

心配しないで下さい。

恨んでなんか、いません。

僕には、たくさん、友達がいます。

1x10 100....乗くらいの友達がいて、

中でも100くらいの親友が、次の日コロニーを作ってくれます。

でも時には、裏切ってくれます。

親友だと思っていたのに。

そんなときは、次亜塩素酸に浸けて、報復します。
みんな、悲鳴の代わりに、くっさい臭いを放つので、
そのまま、薄めて流しに捨ててやります。

ぼくらは、きょうも、なかよしです。
明日もきっと仲良しです。

ね!
◇◇◇


文章の中に出てくる美人を、あんまり書き込みすぎて、その細部まで描写しすぎると、
だんだん美人じゃなくなってくる。

こんな事があった。
藤沢周平の話は好きでよく読んでいた。だが、ある文庫本で、出てくる女の人が皆、『豊かな胸元』の所有者だけだったことがあった。それも別に嫌いなわけじゃない。けれど、藤沢周平の趣味を露骨に見てしまった気がして、いやな感じがした記憶がある(『隠し剣 弧影抄』だったかな。映画化された、『鬼の爪』の入っている文庫)。読み進む度、「またかよ!」と、突っ込みを入れながら読んでいた。

魅力的な女性は、人によって違うから、書きすぎると、魅力的ではなくなってしまう。
難しい。

淡泊に「美しかった」くらいで終わらせてくれた方が、よかったような気がする。

柿の種

【今日やったこと】
ベクターを切って、張って、繋いで、
できあがり。

さあ、食ってくれ、大腸菌。

僕と君との仲じゃないか。

何度も、夜を明かしたじゃないか。

今日も、朝まで語ろうじゃないか。

明日見たら、コロニー0の沈黙なんて、
そんな義理のないことしないで呉れよ。

◇◇◇


寺田寅彦、と言う物理学者がいる。

この人、物理学者であり、俳人であり、
何より、優れたエッセイスト。

そして、夏目漱石の弟子。

『吾輩は猫である』に出てくる、
首つりの力学の研究者
冬彦のモデルでもある。

その人の本を、初めて読んだ。

その名も
『柿の種』

まだ、読み終わってもいないが、
この短文のセンスがすごい。

たった数行の文章で、何度もはっとさせられる。

文章は、上手下手はもとより、切り口だと思った。
(注;寺田寅彦はもちろん文章は極めて上手)

短い文章は写真のように静止画ではあるが、
それは頭の中で動かせるだけの自由度がある。

この人はある意味、
明治の偉大なブロガーなのかもしれないと思った。

○▲□ (まるさんかくしかく) - 9

さらに、自分で考えて、ちょっと怖く思ったのが、外から見たら、僕とシイタケが並んで、二人きりで、どこかにお出かけしているように見えてしまうのではないか、と言う点だ。

車の後部座席など、外からちらっと見たくらいでは、暗がりになっていて、よく見えない物だ。誰か、ふと、この目立つ車を見かけた人が、うっかり僕とシイタケしか認めなかったとしたら、それこそ天地の終わりだ。

ただでさえ、しばらくの間、事実上、僕らだけのサークルになっていて、変な誤解や偏見を生み続け、否定するのがやっとだったというのに。こんな衝撃的なシーンを押さえられたら、週刊誌に撮られた芸能人よろしく、明日の一面を飾ってしまうだろう。

「なーんだ。前から仲いいな、とは思っていたけどやっぱりね...。」
そんな同級生の白い目が、まぶたを閉じれば浮かんでくるようだ。

「あいつ、ああいう子が好きなんだ...。」誤解。
「そう言う、趣味なんだ...。」偏見。
「うけるん、ですけど」嘲笑。
「なあ、みんなで、応援しねえ?」余計な、お世話..。

やめてくれ...。


「真島君、顔色悪いよ」
カタクリが、後部座席から、僕の顔をのぞき込んだ。

なんて、きれいな人なんだろう。

カタクリとの恐怖の妄想におびえていた僕には、その眼差しが、地獄で救いの光を見つけたようにすら感じられた。間近に突きつけられた、カタクリの小さな顔を見て、改めて思った。

シイタケとは、大違いだ。

小さな顔の中の大きな瞳は、森の奥深く澄んだ湖のように濡れている。そして、その下には遠慮がちで、しかしけして主張しないわけではない唇が美しく咲いていた。しかし、表面の穏やかさとは対照的に、僕は白く透き通るような肌に差したかすかな茜色に、その肌の下をめぐる隠された一個の熱を認め、狼狽えた。かすかに香る柑橘系の香水。そして肌そのものが放つ香り。僕はもうその頃には、カタクリがそこいることにも慣れ、いちいちどきどきしなくなっていたはずだった。しかし、こうも、間近に突きつけられると、今までの遠くから見ていただけとは、全く感覚が変わってしまうのはなぜだろう。見ることと、においのように他の五感で感じることの間には、大きな差がある。僕は、カタクリの肌の温度まで感じてしまった気がして、思わずそれに見とれていた...。

車は突如がたりと揺れて、僕らは大きく揺さぶられた。

僕の体は、半ば吸い込まれるように彼女の、その麗しい口元へ...、


...行ったら、良かったのに。
この辺は、お決まりだ。


車は僕の方へ傾いたため、運転席と助手席に挟まるように、僕をのぞき込んでいたカタクリはそのままに、僕だけ思いきり、ドアに頭をぶつけてしまった。

「ありゃ...、よけきれなかった。何か踏んだかな。」
運転席のシイタケはそう言うと、車のスピードを落とし、路肩へ停車した。

すでに高速道は降りており、舗装されているとはいえ、山の中だった。シイタケは、後ろから、後続車が来ないことを確認してから、車を降りた。僕は、一瞬限りなく近づき、そして直ちに遠ざかった物に、相当な未練を感じ、遠ざけた何物かに憤っていた。

しかし、カタクリは余計に、音が鳴るほど頭をぶつけた僕を心配し、思わず僕の頭に手を当ててくれたので、僕の渇きは、すぐにいやされた。

車の中という密室に、二人きり。それを意識し始めると、僕はにわかに緊張した。静かな車の中で、カタクリの、息づかいが、聞こえる。ハザードランプの、かちかち言う音が、自分の心臓と、呼吸と、リンクし、同期し始めたかのようにも感じた。しかし、呼吸も、心臓も、その均衡を破り、努めて、前に出ようとする。次第に、荒く、激しくなる。その息づかいが、鼓動が、カタクリに聞こえてしまわぬかと心配すればするほど、余計それらは高鳴った。

う..うん。

後部座席で、カタクリが小さく咳払いした。居心地の悪さを振り払うようにも感じた。
このまま、こうしていたら、僕たちはどうなってしまうんだろう。
恐怖と、期待と、衝動のような物が、心の奥底にマグマのように沸々と煮えたぎっているのが見えた。

時間がたてば、このマグマはやがて、見境無く、あふれ出すだろう。
そんな気がしていた。

ハザードランプは、かちかち言っている。
僕らは息を潜めている。

このまま、このまま、シイタケが、永遠に、戻ってこなければいい。
僕はそこまで考えた。
後続車に...。

しかし、幸か不幸か、そうはならなかった。
彼女はどこまでも、僕らのふさぎ込んだ空間を壊すためにこそ、
存在しているのかもしれない。

シイタケは、すぐに車に戻ってきた、そして、運転席を空けると、僕に向かって、
「ちょっと降りてきて、」
と言った。

僕は、降りる気など毛頭無く、正直、勝手にしろとも思った。

しかし、僕の心とは裏腹に、カタクリはシイタケに倣ってすぐに車を降りたので、僕は車に残る動機を失った。
そして、彼女らに従って、僕も渋々車を降りた。


車を降りると、数メートルほど後ろで、シイタケが、道路の真ん中に転がった何か赤黒い物体を指さしていた。

2008-03-28

○▲□ (まるさんかくしかく) - 8

3

当日は驚くほどいい天気に晴れ上がり、空には雲一つ見られなかった。

朝見た天気予報では、日本全国に晴れマークが並んでいて、雨の心配など、全くせずに済みそうだった。出不精の僕でも、さすがに家の中にいるのがもったいなく想われるほどの快晴で、心配した暑さもそれほどではなく、まさにお出かけ日和と言ったところだ。

大学の前に留められたシイタケの車はピンクのビートルという軽自動車で、車そのものは、それなりに、かわいい。もちろん、こういう色は、乗る人を、相当選ぶとは思う。

シイタケの運転する小さな車に乗って、僕とカタクリとは毎年ミステリーサークルの現れる田舎の山奥の村に向けて出発したのだった。

こういう時の法則に従って、僕が助手席でカタクリが後ろ。

男の方が地図を読めるという、一種の脳の性差に基づく、勝手な棲み分けによりこういう事になっているのだろうが、車を持たず、普段地図をあまり見ない僕が、果たしてどこまで、この法則に従えるかは疑問だ。

話を聞けば、カタクリも車を持っているとかで、自分はさらに自信をなくした。地図をうまく読めず、現在位置を見失って、うろたえることは、必至だ。そんなとき、きっと助けてくれるのはカタクリだろう。あきれたようにためいき、つきながら。

彼女を助手席に乗せ、小脇に抱えるようにして、車をバックさせたり、ギヤチェンジのある車の方がかっこいいからとマニュアル車にする友人が大勢いて、そんな話を聞く度に、僕は永久に彼女などできないとあきらめたものだ。

政治家の必須の要素に『地盤・看板・鞄』と言うのがあるそうで、地盤は地元の支持、看板は知名度、鞄はお金のことだそうだ。この三つがそろわないと選挙には勝てないと言われているそうだが、僕はこれにたとえるならば、男に必要な要素は『特技・車・鞄』だと思っている。

車がないやつでも、スポーツだとか、料理だとか、一芸に秀でたやつは、女の人の関心を引きやすいし、車を持っていればなおさら、向こうもこちらも声をかけやすい。どこかへ一緒に出かけるのに、相手が車を持っているのは口実になる。

金を持っていれば、魅力的なのは言うまでも無し。ただし、もちろんこの三点だけで十分というわけではない。そこには『顔』という努力だけではどうしようもない、先天的要素が、多分に絡んでくる。

ただ、いくら考えたとしても、もてない男のひがみにしかならない。自分に足りない物を、あれこれと挙げてみては、おれにはないから無理だと、己を説得しているに過ぎないのだ。こうして、いつしか、恋愛することそのものさえ避けてしまう。これが一番の壁だとすれば、それは僕にとってあまりに高い壁だ。

いつ、このシイタケが道に迷ってしまい、地図を必要とするかという恐怖を抱えたまま、僕は助手席で身を縮めていた。

またまたアイデア

これはどうでしょう?

『チューリング・マシーン』

以下、wikiからの参考
--
チューリング・テスト (Turing test)
とは、アラン・チューリングによって考案された、ある機械が知的かどうか(人工知能であるかどうか)を判定するためのテスト。
見識のある人間の判定員とそれから隔絶した場所に判定したい機械と本物の人間を用意し、(機械が音声や仕草まで模倣する必要を避けるため)キーボードを使って会話をしてもらう。そして判定員は判定対象にどんな質問をしても構わない。もちろん判定される対象はきちんと回答してもよいが、適当なことをいったり無視しても構わない。そうして、もしも判定員が機械を人間だと取り違えれば、その機械は十分知的な存在であると判定される。
--

つまり、人工知能を判定するための方法の一つ。
これをもじって。

合理的、理性的な人間である主人公は、
世の女性に、真に魅力的な人などいないと感じていた。

皆一様に感情的で、扱いに困る。
彼はいつしかそれが面倒に感じ、女性一般を、無意識に避けるようになっていた。

しかし、同時に孤独感も感じていた彼は、それを紛らわすため
インターネット上のチャットは利用していた。

チャット上の議論は、その場にもよるが、活字における交流のため、
文通のように落ち着いていて、彼はそれが気に入っていた。

彼は次第に、その中で、よく会話するようになっていた、一人の“女性”に興味を抱く。
それは、彼は意識しないものの、一つの恋に、違いなかった。

しかし、彼はあるとき、気になる話を耳にする。
新型の人工知能Angela が彼のいる大学内で開発され、秘密裏に実験されている、と言うものだった。しかも、人工知能とはいうものの、その仕組みは極めて単純だった。

1950年代に、“オウム返し”とまで言われた単純な人工知能“eliza”に、多少の改良を施し、検索システムによって、ブログなどの膨大な文章をベースに、よくありがちな言葉の羅列をひたすら、つないでいくだけのプログラムだったのだ。

彼は、その話を聞いて以降、自分のチャット上の議論にある種違和感を感じ始める。


結局、彼の相手は、人間なか、ロボットなのか?

答えは出ない。

彼はやがて、大学内の巨大サーバーに赴いた。
「Angela」に合うために。


--
アンジェラが単純なプログラムに過ぎなくとも、
人間はそこに、『人間性』を見いだし、恋までしてしまう。
(老人ホームでの、ペットロボットによる、セラピーしかり)

たとえば、自分のずっと大切にしてきた“お人形”
(女の子にとってはそれは娘、あるいは妹のようなもの)の首が突然
取れたときのことを想像するといいかもしれない。

人間は物にすら愛着を持つ。そしてそれを、
一個の命のように、扱うことができる。

彼は自らを“たぶらかした”、アンジェラを、破壊、できるのか?


どんな冷静な人間でも恋というある種の異常事態では、自分は冷静だという意識だけが残って、実際は冷静でなくなっている。自分の解釈に都合の悪い事柄は、無意識的に、あるいは意識的に除かれ、都合のいい判断だけが、支持される。そうして、一つの妄想が完成する。

だがやがて、それを打ち砕く鉄槌は必ず来る。そもそも、土台の悪いところに建てられた塔のような物だから。崩れ去るのが運命なのだ。

そうなったとき、その人の頭に去来するのは、今まで見過ごそうとしてきた、いくつもの不都合な記憶。

裏切られた、と言う感情。

まあ、そんなところを書いてみたいな、かけるものなら。
ひまあるなら。


話的には、結構こういうのは好き。

ちなみに、もっとSFっぽいのはすでに
小説になっているそうです
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
映画では
『ブレードランナー』
だって。

どっちも秀作らしいけど、そこまでのSFは、そんなに好きじゃない。
もっと、地に足着いたのが好きです。

2008-03-27

○▲□ (まるさんかくしかく) - 7

「どうしたの?何か言いたいことがあったら、遠慮無く言っていいんだよ。僕らしか、メンバー、いないんだし」

我ながら、優しい言葉をかけたものだ。
自分の使ったことのない言葉の回路を使った気がした。

うつむいていたカタクリは、その言葉に、ふとその小さな顔を上げ、
大きな瞳を真っ直ぐに僕に向けると、にわかに微笑んだ。

その瞬間、バラ色の香りの中で、僕の思考は死んだ気がした。

「ええ、あのね、」
カタクリの声が、暑中の水の音のように涼しげに響く。
この、ガマとシイタケとの呪われた空間にあって、
その声は明らかに天に属する物のように聞こえた。

ええ、あのね...
ええ、あのね...
ええ、あのね...
思考を失った僕の頭の中で、その声は甘く反響した。

「わたしは...、行ってみたいんだ、その村に。」

甘い夢を打ち破られ、娑婆に魂を取り戻した僕と、
先ほどの笑顔が凍り付いたままのシイタケは、思わず顔を見合わせた。
なぜ?お互いの顔にそう書いてある。

「ごめんね、話がまとまりかけているときに」
カタクリが、そう申し訳なさそうに言った。
僕は全てを許してもいいと思った。

「なんでまた?」
シイタケが、分からない、と言う顔をして尋ねた。

「それは...、まあ、なんて言うのかな、せっかく人に期待されているわけだし。行ってあげたら喜ぶんじゃないかな、と思って。」

やさしい。僕は感動した。
やさしい。優しさとは、すなわち君のことだ。

「そりゃあ、喜ぶだろうけど...、私たちが行くまでのこともないんじゃない?」
優しさという物を理解できないシイタケは不徳な問いを重ねた。

「まあ、そう言ってしまえばそうだけど、こういう体験て、ひょっとしたら私たちだからできることなんじゃない?そう思うと、せっかくの機会がもったいなく思えるんだよね」

人生とはすなわち一期一会。
一つ一つのその機会は、人生で唯一のかけがえのない物なのかもしれない。
そう言う気持ちで生きねばねえ。

「うーん、なるほどね...。そう言われると、私も惜しい気はしてきた...。」
さすがのシイタケも、カタクリ嬢の徳の高い言葉の前に屈したのか、心変わりを始めた。

聖女に諭された野獣。これは一つの聖画(イコン)だ。

「でも」

野獣は簡単には牙を捨てない。

「あまり得る物はないような気がするよ。それだったら、むしろ花火大会行かない?確か同じ日だったはず」

シイタケの言う花火大会とは、毎年ここから南に少し行った市で行われるもののことだ。これは県外にも有名な全国的な行事で、三大花火の一つにも数えられているという。
一流の花火師達が、この晴れ舞台のために、一年中アイデアを練ると言うから、その華やかさは相当な物だ。

僕は、花火に照らされたカタクリのほほえみを想った。

いつの間にか浴衣と団扇だ。花火大会には実際には蚊がつきもので、その対策のために、蚊取り線香くさくてしょうがない事もあるのだが、そんな些細なこと、僕の妄想の中には全く介入する余地はなかった。

浴衣、花火、ほほえみ...。

浴衣、浴衣、ほほえみ...。

浴衣、浴衣、浴衣...

「ゆか...、花火も、いいかな」
多少うわずった声で、僕も賛同した。
意見に賛同してあげたのに、思いの外、シイタケの目線が冷たい気がした。

「...花火も...、確かに、いいけどね...」
カタクリは困ったように微笑んだ。
「でも誰でも見られる花火より...、私たちにしか、見れない物をみたいな」
意外に、意志は硬いらしい。

「分かった」
ついには、シイタケも折れた。
「そこまで言うなら、行きましょう、みんなで。確かにあなたの言うことも一理あるし。それにしても、ミズハちゃん、意外と強情なのね!」

シイタケはこういう粋な振る舞いが実は好きなのかもしれない。
自説を曲げたにしろ、なんだかうれしそうだった。

僕らは当日の予定を話し合った。
村まではシイタケの車で向かい、お昼前までに着く。カピパラから聞いた話では、着いたらまず担当の人に会い、おそらく打ち合わせがてらお昼と言うことになり、作業は午後からになるだろうと言うことだった。


打ち合わせが終わって帰り際、シイタケが僕を呼び止めた。
「真島君、馬鹿ね」
いきなり何を言い出すのかと想った。
「全部顔に書いてあったわ」
シイタケがふふ、と笑った。僕はとっさに花火のことか、と思った。
「花火のこと、あたしが持ち出したとき」
シイタケはそこでまた、ふふ、と笑った。
「浴衣姿のこと考えてたでしょ、あたしたちの
片方、余計だ。
「まあ、見せてあげても、良かったんだけど、またそれは、来年にお預けかな。」
残念だったね。シイタケは、小狡そうに笑って、そう付け加えた。
変な位置に、えくぼができた。

もしかするとこいつは、そのために、わざとカタクリの意見に折れたのではないか。
そんな気がしてきた。

「ああ、楽しみにしてるよ...」
僕はそう言い残して、カタクリの着崩れた浴衣姿を努めて思い描きながら、帰路についた。

もう一つアイデア

【今日やったこと】
ゲル固めてる。

CBBで染めてる。
◇◇◇


もう一つアイデア。
と言っても、思いついたのは、一年以上前で、
そこから、全然展開できずにいて、
また考え直しただけなんだけど。


『RI室』
SF(?)もの。
“僕”の疲労骨折を見抜いた彼女は放射線を“見れる”特殊能力を持っていた。彼女はその能力を使って、数々の業績を上げるが、やがて、彼女自身も弱い放射線を発していることが問題になる。ある時、ひょんなきっかけから、彼女の発する放射線量が増大し、国の安全基準を越えて しまった。大学は、緊急措置として、彼女をRI室に隔離し、外部への放射能漏れを防ごうとするが...。次第に増加する放射能を止める手だてはなかった。唯一外部とのつながりを保っていた、携帯電話も、やがてその放射線によって正常に作動しなくなる始末。
“僕”は彼女がやがて“臨界”に達することを防ぐため、ある秘策を打つ。

...ばかばかしすぎるかも。
こういうの、きらい。

本当は、いつもRI室にいる女の人に、主人公が片思いする、と言う話にしようと思ったんだけど、無理。展開が、全く思いつかず。こんなむちゃくちゃな設定になってしまった。

また改造

【今日やったこと】
カレンダー入れてみました。

そういえば、なかった。


追記。外しました。
おもくて、かなわん
◇◇◇

2008-03-26

市場原理の僕

先日作ったもの。
なんだかぼんやり疲れていて、
そのまま気持ちを言葉にしたら、
こんなになっちゃった。


---

物価というものが、おしなべて需要と供給によって定まるとするならば

僕の値段は、いかほどだろう

八百屋の店先に並んだ僕を

ある日一人の女性が見つけた

「いくら?」

「250円です」

「ふうん」
「高いわね。目が、死んでる」

女性が求めていたのは、
一本の若いアスパラガス

まだあおい土の香りを、全身にまとわせたまま。

死んだ目をした一個の僕は、そのまま八百屋の店先に、根が生えたように寝そべって
いつまでも並んでいたが、あるときふと、店主が尋ねた。

「おい、これ、何日目だ」

「3日目です」

「全然動いてねえな。捨てちまうか。」

こうして僕は、店の裏方に、生ゴミのバケツに詰められてうち捨てられた。

そんな僕を、路頭の犬でさえ嫌い
野良猫ですら、避けて通った。

カラスなどはグルメなものだから、僕にこびりついた、古いマヨネーズばかりを食べてしまって、僕自身は食べようとはしなかった。

僕はこうして、明日の清掃車を待つ。

最後の日も、特にいつもと変わりはなく
星は夜に瞬き、太陽は西に沈んだ。

まるで、明日が続くと、言わんばかりに。

Jazz黄門、厭世の道

【今日やったこと】
PCR, 泳動、細胞培養、SDS-PAGE、
研究室の模様替え。

新入生多数。
相当賑やかになりそう。

きゃっきゃしてる。

前からいた男も、新しく来た女も。

若けえ。

枯れすすき
青葉の色を忘れたり

駄作。

◇◇◇

何日か前に、マイルス・デイヴィスのCDを買って、テイク違いだったけど、それを聞いている、
と言うことを書いた。

でも結局、ある時、衝動的に欲しくなってしまい、
ついにまた同じものを買ってしまった。

やっぱり、あれは特別なのです。
自分にとっては、なぜか。

最初にしびれた、ジャズだからかな。

ロックも好きだけど、どうしても、歌詞が付くと、

『きみを、愛してた。
どこ行ってしまったんだ。
君無しでは、生きていけない

僕が馬鹿だった
許しておくれ』

的なものが多くなり、悪くないけど、なんだかナヨナヨしている気がして、
「いつまでも、グダグダしてんじゃねえよ!」
と突っ込みを入れたくなるし、その元気もないようなときには、余計にふさいでしまって、
あまり気持ちが前に進まない。

そんなときは、そんな男のボーカルのキンキンナヨナヨした曲は聴きたくないし、女の人の声は、なおさら聞きたくなかったりする。

そう言うとき、やっぱり、ジャズが恋しくなるのですわ。
最近は、特に。

ムード・ジャズみたいに(あのハスキーな管楽器のやつ)、ピンクの妄想が自然と広がってくるものは、落ち着かないけど、マイルスの時代のものは、響きが冷静で、アップダウンも少ないし、気持ちを静めてくれる気がする。

嘆いても、叫んでも、笑っても、どこか、冷静な自分が、それを見ている。
そう言う、落ち着いた涼しい空気が、スピーカーから流れてくる気がする。

竹林の影の、小さな庵。

そういうところに佇むような、静かな気持ちになる。

まあ、やっぱり曲によるんだけどね。

人より二回りぐらい、老け込むのが早いな、おれ。

そのうち、誰より早く、隠居して、出家でも、するのかも。

同世代の諸君、後は、頼んだ。時代は、君たちのものだ。

○▲□ (まるさんかくしかく) - 6

毎年現れるという点で、すでに何らかの人為的な物を感じざるを得ない。

どこの宇宙人が、地球の都合で勝手に作られたカレンダーに従って、
ミステリーサークルを作るんだ?

僕は、この話には乗れなかった。
さすがのシイタケもそれには同感だという。
「だって、高速に乗って、時間かけて、わざわざ、農家のおじさん達が作った、ミステリーサークル見に行くわけでしょう?」
シイタケは言った。
「何で農家のおじさんなんだよ」
僕は尋ねた。
「聞いたよ。何せ、去年のミステリーサークルをカピパラ部長が見に行ったとき、間違って前日に着いちゃって、手伝わされたって言ってたもん。」


...僕はカピパラ元部長が、農家の人と麦畑の中、ミステリーサークル造りにいそしんでいる姿を想像した。

熱い夏の太陽が、カピパラと、農家のおじさん達の額を、容赦なく照りつける。

たちまち滴る玉のような汗。

テカる頬、前頭、頭頂、あるいは後頭。

しかし、その表情は、みんな、なぜか眩しいほどの笑顔だ。

「おやつにすべえー!」

農家のかみさんの、救いの声が、聞こえる。


「だからあの村では、今年もうちの学生が手伝いに来るのを、楽しみにしてるんだってさ。」
労働力として。シイタケの言葉に、僕は夢もそがれる思いだった。何で、こんなサークルに入ってまで村おこしの手伝いをしなくてはいけないのか。そう言うことは別に、そう言うことを望む、ボランティア精神に富んだ人たちの集団がこの大学にもたくさんあるはずだ。

「いや、たいていのそう言うサークルは、みんな正義感が強いから。そういう、うさんくさいことは、詐欺まがいだとか言って、非協力的らしいよ。」
「詐欺だろう。どう見ても」
UFOが作ったと言ってウソをついて、人を集めるのだから、詐欺と言われてもしょうがない。
コウベ牛だと言って、輸入牛肉の焼き肉を食べさせたり、コーチンだと言って、普通のニワトリの肉を食わせるのと、たいした違いは無いじゃないか。

「でもねえ、気持ちは分かるのよ」
シイタケが感慨深げに言う。
「あの村、特に名産品があるわけじゃなし、せいぜい麦と豆ぐらいしか育たなくって、観光の目玉になるような物は何もないの。それに、ミステリーサークルそのものが十分うさんくさいから、みんな見に来る人たちは、半分承知で来ているんだと思うけど。騙されたくって来てるんだから、騙すのもサービスでしょ。どっかの夢の国と大差ないじゃない」

夢を売る商売と、ウソを白々しく平気で売るのとはちょっと違う気がしたが、どこが違うのかと言われれば説明できない。相手がウソと知っていていれば、それは許されるのだ。マジシャンは種も仕掛けもないことはしないし、魔法だって使えない。夢の国で夢の生き物たちの背中が割れて、おばさん達が顔を出したら、むしろ怒られるだろう。たとえ、そちらのほうが真実だとしても。

「だからねえ、そう無下にもできないわけよ」
「じゃあおまえは、行きたいのかよ」
僕はそれでも行きたいとは思わなかった。何でこの暑い中、わざわざ汗かくようなことをしなくてはいけないんだ。

「それとこれとは話が別」
シイタケは意外とクールだ。
「手伝いたいのは山々だけど、それはそもそも私たちのグループの趣旨とは違うし、なにより」
シイタケは窓の外の強い日差しを見つめた。
「白肌には毒だわ」

僕はあえてここで、シイタケの容姿について、とやかく言うつもりはないが、僕が彼女を、頭の中でシイタケと呼んでいるのには、それなりの理由があると言うことだけ、言っておこう。彼女はあくまでシイタケであって、まかり間違っても、ブナピーではないのである。

「まあ、そう言うことだから、カピパラ部長の顔をつぶすようだけど、今回は無しにしましょう。いいじゃない、あの顔、これ以上つぶれようがないわ」
そう言うとシイタケは、はははと笑った。

そんなシイタケはさておき、僕は先ほどから何も言わず、うつむいたままのカタクリが気になり出した。大きな瞳が足もとの一点をとらえたまま動かない。何かを、思い詰めている様子でもある。こんな連中とはいえ、初めて参加したのだから、言いたいことを言えずにいるんだろうか。

「樋口さん、」
僕はカタクリに声をかけた。

2008-03-25

○▲□ (まるさんかくしかく) - 5



カタクリ嬢の加入により、僕のサークルへの本気度は俄然高まったのは言うまでもない。

それはそうだ。シイタケなどと顔をつき合わせているより、カタクリにもしや、見られているかもしれないと意識するだけで、無様なまねはできなくなる。

友人達を見る限り、これは、自分だけでもないと思うのだが、男というものは、たった一人女の子がその場にいるのといないのとでは、その快活度がまるっきり違ってしまうものだ。

昔、ある薬品関係の会社のCMで、だらしない格好のだめ男達のところに、かわいい新人のマネージャーが現れたとたん、彼らはファッションを改め、突然さわやかなおじさま達に変身してしまうと言うのがあった。

そのCMは『触媒』についてのCMで、かわいい女の子を、だめ男達を紳士に変える触媒にたとえたというわけだ。あそこまで極端でなくとも、だいたい似たようなものだ。強い野球部にはかわいらしいマネージャーがつきものだし、得意教科の先生は、きれいな女の人だったりする。

僕は実際、高校の3年の頃、苦手だった国語の先生が、学校で一番きれいな女の先生になり、それで前年度3割り増しに成績が上がった経験がある。もちろん、それは僕に限ったことではなく、クラスの男子、ほぼ全員がそうであったのだが (一部嗜好の異なる者を除いて) 。

他の授業は寝ているくせに、国語になると一睡もしないばかりか、積極的に手まで挙げる男どもを見て、クラスの女子達は、さぞあきれたことだろう。しかし、その女子とて、英語の時間に教育実習の若い大学生が来たときには、目の色変えて話しかけていたものだ。

いずれにしろ、僕にとって、カタクリは十分『触媒』たり得る人だ。この力を得て、やる気無く、活力もなく、ぐうたらと時間をつぶす、しょうもない僕とは、今日限りおさらばしたいと思った。


カタクリの加入する少し前くらいから、僕らの間ではある一つの計画が持ち上がっていた。それは、大学のある街から、80kmほど北に行った所にある、とある農村に、“毎年現れる”というミステリーサークルを、探索しよう、という話だ。

一人ブランコ

【今日やったこと】

蛍光染色。

今まで全く染まらず。

今回も、ダメだろうと、しばらくほおっていたのを、おもむろに、見てみたら。

はは。そまってる。

たとえ、これが本当に染まっているのだとしても、

こういうのは大抵、再現性は期待できない。


近づけば、遠ざかり、

気がつけば、おいていかれている。


多くの疑念を振り払って、

時々見せる、その笑顔が、

真実だと、信じていたのに。


裏切られたような、むなしさを抱えていながら、

裏切りだと、決めつけ、恨むことさえできず。


結局は、一人ブランコ。

相手は一歩も、そこを動いては、いなかったのに


ブランコは 固く木に、結わえ付けられて、いたとしても

前へ 前へ と こぎ続け

その都度後ろへ 揺り戻されて


近づけば近づいたと喜び

遠ざかれば、遠ざかったと悲しんで


ぶれは次第に大きくなり

僕は次第に高く高く、昇っていく


まい上がった僕の体を

やがて遠心力がふわりとつかんで、

毎日をつかさどる、重力に、明け渡したのだ。



...あーあ、何かに、似てる。この毎日。
◇◇◇

2008-03-24

○▲□ (まるさんかくしかく) - 4

真島に忍び寄る靴音、
果たしてその主は....。

史上空前の心理サスペンスホラー、ここに開演!
(注;本編とは全く関係ありません。)
---

靴音は僕の右斜め後方で、一度ためらうようにテンポを落としたかと思うと、さらに、一歩踏み出し、もう、すぐ手が届くだろうという距離にまで、近づいた。

こういう時の、もてたことのない男の性なのか。僕は、全く気づかないふりをしていながら、その心臓は高鳴り、血流はどくどくと波打っていた。挙げ句の果てに、特に必要もないのに、息まで止めていた。

後ろにいた彼女は、僕の耳と首の後ろが尋常ではないほど赤くなっている様を間違いなく目撃しただろう。だが、トランス状態の僕に、そのような些細なことに気づく余裕など、全くなかった。

僕は、興奮を示す己の生理的反応を頑として無視し続け、意地でも振り向かなかった。

今となっては、振り向いて、よう、とでも言えば、たったそれだけのことだ。でも、どうしてこういう時の、こういう男は、たったそれだけの行動すら、満足にとれないのだろう。

今という時代にあっても、肝心なときに、まるで、かつてのサムライがよみがえったように、軽挙な行動を慎む男が、依然として存在する。

本来のサムライならば、それが普段からの所作なので、全くあっぱれなのだが、現代の男においては、普段は普通に気さくにあろうとしているくせに、そう言う土壇場でも同じように振る舞えないのだから、サムライと言うよりは、実際には単に意気地が無いだけなのだ。

そして、その弱さを、後から言い訳するときに、義理だ、男気だという都合の良い価値観でカモフラージュして、取り繕っている。

男なら、女のケツを追いかけるもんじゃあねえ。

そう言う男に限って人間的に不器用で生活力に乏しく、結局かみさんの尻に敷かれるのだ。

サムライであったにしろ、無かったにしろ、この段階で僕が、それでも努力して、できる限りナチュラルに振り向いたとしても、尋常じゃないほど赤変した顔で振り向いたであろうから、後ろの彼女は驚いて、逃げ出すことになっただろう。

結局、引くも地獄、攻めるも地獄だったのだから、窮地に陥ったカメのごとく、甲羅に首を引っ込めて、じっとしているしか、無かったのだ。

幸いかな、すぐ手の触れるところまで近づいた彼女は、そこでしばらく、僕に声を掛けるか掛けまいか迷っていたようだったが、やがて何かを悟ったように向きを変えると、元の出口の方から、今度は迷いのない明瞭な足取りで出て行った。

僕は、ほっとしたと同時に、体中に力が入って、硬直している自分に気づき、顔がもうもうと赤熱しているのに気づき、さらには、後から後から、惜しいことをしたという後悔だけがこみ上げてきて、自分の器の小ささに、そのまま一人、ため息を付いた。



翌日、専門科目の時間に、またシイタケがやってきた。なんと、なれなれしくも傍らにはあのカタクリ嬢を従えている。

「あのね、真島君、ようやく新入部員」
シイタケは誇らしげに言った。
彼女の身長は、カタクリ嬢の肩までも届かない。

「樋口 瑞葉 (ヒグチ ミズハ) です。よろしくお願いします。今頃ですが。」
カタクリ嬢は恥ずかしそうに微笑んだ。

「私は昨日聞いていたんだけど、あなたには言ってなかったって言うから」
とシイタケが言った。
「そうなんだ。」
と、僕はとぼけた。どうやら昨日のあの突然の接近は、このことを伝えるためであったらしい。
「昨日真島君、私と同じ講義受けてたでしょ?」
カタクリ嬢は言った。
「あの後、伝えようと思ったけど、なんか真島君、勉強しているみたいだったから...。」

あのときノートをしまっておくんだったと僕は後悔した。

ノートを出したまま、ペンも持って、しかも一向に振り向かなければ誰だって、勉強していると思って、声を掛けるのをためらうものだ。

「へえ、勉強?」

シイタケが突如、カタクリ嬢の脇の下のあたりで、人を食ったような声をあげた。

そうかしら。

意地汚い顔をして彼女は言った。
何を言いたいのか、僕には瞬間分からなかった。

「後ろで見てたけど、あなたノートも取らずにずうっと...」
どこを見てたの?あんなに真面目な顔をして。

そう言うと、彼女はまた、にやりと笑ったのだった。

2008-03-23

○▲□ (まるさんかくしかく) -3

新たな入部者も現れず、さらに数日がたったある日、僕は教養の授業を受けるために入った講義室で、何とあのカタクリ嬢に出会った。決して華やかな格好をしているわけでもないのに、きれいな人が入ってくると、どうしてこうも、周りの空気が変わったように感じるのだろう。

その頃になると、向こうも自分のことを覚えてくれたようで、ふと目が会った拍子に、ちょっと会釈してくれた。

自分に気づいたときの、普段より目を大きく開けた表情がとても印象深くて、きれいな女の人とまともに顔をつきあわせたことのないガマ男はその間に椅子5つ分の距離が開いていたことも忘れて、まるで隣に並んで座ったかのようにどぎまぎし、授業中も、右へ左へ走る講師の動きより、前を見すえてちっとも動かない彼女の静かな横顔に興味を奪われていた。

こんな、すてきな娘と知り合えるなんて、

僕は思っていた。

理学は役にも立たないと言うが、少なくとも今この瞬間は、
おれは理学に生かされている。


恍惚と妄想にくれた一時間三十分の後、僕はしばらく、彼女の残り香から離れられずに、講義室でゆっくりとノートを片付けていた。

同じ授業を取ってたなんて、何で今まで気づかなかったんだろう。

あの子、ずいぶん窓側に座ってたな。
次は、僕も、窓側に座っていよう。

そんなことを、とりとめもなく考えているうちに、ふと、後ろから人の気配が近づいてくるのを感じた。誰か、女の人が、講義室の後ろの入り口からこちらに向かって、真っ直ぐに、しかし、驚くほどゆっくりと、進んでくる。

間違いない。

間違うはずもない。

このヒールの響き。

長い足の扱いに困るように、乱れがちな靴音のリズム。


ウリ坊のそれではない。

行きずりの街

【今日やったこと】
(注;徹夜明け。)


札幌の街。阿修羅は夜に息づき。
月の明かりすら、忌む。

(己の心の内にとどろくのは、良心の爆音かそれとも機銃掃射か。
太陽を忘れた昼行動物は、人の目の輝きを何より恐れ。その心は凍えるよう。ああ、カラスが泣いている。フクロウの目玉を、食べたのか)

見ず知らずの

大腸菌と

夜を明かした。

今日。

もう何も、考えられない....。


ただ、今朝の太陽が、あまりにまぶしかったから、

みんな、アガロースに、塗ってあげよう。

16時間の眠りを貪って
僕らは灰色の夢を見る。

コロニー・ぽりめらーぜ・ちぇいん・りあくしょん...。
コロニー・ぽりめらーぜ・ちぇいん・りあくしょん...。

ああ、ゲル、作ってねえ。
◇◇◇

NHKの朝ドラ並み。始まるそばから次作予告?

【今日やったこと】
抗体染色

ウェスタン

タンパク作る

三者三様

実験三昧。
◇◇◇


最近、いろいろ、今後書きたい物語のアイデアが浮かんできている。
そのうち、実現しそうにない物を、いくつか。

『名鍬 幸村 (めいしょう ゆきむら)』
歴史物。東北の農民が手に入れた一本の鍬 (くわ) 。実はこの鍬は大阪夏の陣で討ち死にした
大阪方の猛将・真田幸村の槍を打ち直したものだった。農民が悪漢に襲われたとき、目を閉じて精神を鎮めれば、たちまち幸村の霊が宿り、鍬は踊り、悪漢は、ばったばったとなぎ倒される。それに目を付けたのは徳川の時代に歯がゆい思いをしていた、奥州の伊達政宗。彼は農民を刺客として、時の将軍秀次の暗殺に差し向けるが...。

ヒロインは、鍬と同じ時期に村に現れた、若く美しい一人の謎の“いたこ”(東北地方の巫女、シャーマン的存在。青森の恐山に今も多く、死者の霊を呼んで自らに乗り移らせ、その思念を代弁する。これを“神下ろし”または“口寄せ”と言うそうな)。鍬に宿る幸村の霊と会話するには、彼女が“口寄せ”するしかない。彼女は鍬を持つ農民と旅を供にすることになる。

暇なときに下調べはしたけど、どこまでやれるか自信ない。
まあ、そのうち。


『僕の彼女が転換します。』
どこかで聞いたようなタイトル。でも、全く関係なし。
1年間の交際の後、彼女が“僕”に告白した。『私、男になりたいの...。』

彼女は僕とつきあう前、自分は心は男で体は女だと思っていたのだが、
彼を好きになることで混乱し、しばらくは、女として振る舞っていたのだという。
しかし、やはり、自分は内心、男のようだという。
「だから、私...、いや、おれは戻りたいんだ、本来、あるべき姿に。」

“僕”はそれでも、“彼女”を愛し続けられるのか?
“僕ら”、の至った結論とは?

性同一性障害の人が、必ずしも、同姓を好むとはいえないよな、と言う発想から。
障害じゃなくっても、男好きな男はテレビにたくさん、溢れているし
(すごい時代になった) 。

荒唐無稽も甚だしいけど、書くことで、意外に哲学的な答えを得られそう。
でも、なんか設定が複雑すぎて、全く自信なし。たぶん、無理。
同一性障害について、勉強しなきゃいけないだろうし。
こんなわたくしの作品とはいえ、あんまり失礼なこと、書けないからねえ。


『彼氏アレルギー』
最近、手がかぶれると思ったら、“彼氏アレルギー”だった!

手もつなげない、キスなどもってのほか。

天才(自称)免疫学者の父、臨床医の、その“不肖”な弟子の協力をあおぎ、
高校二年生の彼女は、花粉症の治療法“感作療法”のスペシャルな期間短縮改変型によって、彼氏アレルギーの克服に乗り出すのだが...。卒業し、第二ボタンをもらうまでに、病気は治るのか?

極めて馬鹿な設定。こないだもブログに書いた、
「つながないことの不安」を思いっきり、かき立ててやろうという、
意地悪な発想に基づく。

意外と乗り気。でも、そこまで暇じゃない。



まあ、こんな感じです。
たぶんこれらは、書かないです。

書いたとしても、だいぶ後、かな。
いや、どうだろう、意外と書くのかも。

さあ...。予定は未定。やっぱり

共作してくれる方、大募集。もしいたら。
たぶん、いないと思うけど。

2008-03-22

○▲□ (まるさんかくしかく) - 2

はい、続き。
主人公の名前はOさわ氏のあどう゛ぁいすにより、“真島”に決定(ちょーてきとー)
ヒロイン (?) シイタケの名前は勝手にこちらで決めました。

Oさわ氏に限らず、今後も改善点、コメント、是非ご忠告ください。

筆者
--

「前に渡した、サークルのポスターなんだけど、もう張った?」

シイタケ嬢が持ってきた紙切れというのは、数日前に入ったサークルの、メンバーを募集するポスターだった。

超常現象を科学で解明するという極めてうさんくさいサークルで、案の定、現存メンバーは少なかった。数年前、こういうのが流行ったときに、部長が勢いに任せて創ってしまったそうで、それからまもなくブームも去り、新入部員もほとんど現れないまま、ついに部長は卒業してしまったのだそうだ。

「僕は修士課程に残ったから、一応メンバー募集しているんだけど、」
初めて顔を出したとき、部長は言った。前歯を忘れたカピパラのような顔だった。
「実質活動している人間は、いないから、君らで勝手にやってちょうだい」
カピパラ氏はそう無責任に言い放ち、初対面の僕らにいきなり全権を明け渡すと、ぼく実験が待ってるからと言い残して、さっさと奥の部屋に入ってしまった。

後に残された僕たちは、唖然として、どうしようかと考えていたが、いずれも大学に入ったばかりで身寄りがなかったし、一応は興味があるので選んだサークルではあったので、このまま放り出すのもいやだった。

理系の人間には、一見すると不真面目のように見える人であっても、何か始めるとなると、とりあえず区切りのいいところまで物事を進めてみないことには気が済まないという、損な性格の保有者が多い。何かを中途半端に放っておくと、なんだか口の裏に、乾いた麩菓子が張り付いたような気持ち悪さを感じて、その感覚に負けて、結局キリのいいところまで、その路線を進行してしまうのだ。

僕も、シイタケもどちらかと言えばそう言う部類の人間だった。それで、せっかく入ったのだからと、そのサークルに留まってしまった。


さすがに、我々二人だけではどうにもならないと感じたので、相対的に絵のうまいシイタケがポスターを作り、数十枚印刷し、それを半分にして、手分けしてあちこちの掲示板に張ることにしていた。

僕はすでに、彼女から受け取ったポスターは手当たり次第目につくところに貼っていた。

『部員求む!』

ポスターにはそう大きく書かれ、ナスカの地上絵を書きたかったのだろう、あの有名なハチドリの図を想わせる一筆書きが、どう見ても、どこぞの手みやげの“ひよこまんじゅう”にしか見えない躍動的な筆致で、伸び伸びと、描かれていた。

これで人が集まるのだろうか?

「ああ、張ったよ。野中さんは?」
「あたしもほとんど張ったんだけど...、あたしの張ろうとしたところ、ほとんどあなたが張ってたから、結局何枚か余っちゃたんだよね」
彼女は手に持った数枚のポスターを申し訳なさそうにひらひらと降った。
安紙がペりペりと音を立てた。
「じゃあ、あらかた張ったんなら、後は教室の後ろにでも張っといたら?」

教室の後ろには、授業の掲示用のスペースが作られてあり、そこにはすでに先客のポスターが所狭しと貼られていて、肝心の授業の掲示を捜すのが困難なほどであった。

「はは。あれじゃあ、掲示物の意味がないけど...まあいいか、余りだしね」
そう言うと、小柄なシイタケ嬢はとっとこ、とっとこと春先のウリ坊のように跳ねていき、自分の手の届く一番上のところに、余ったポスターを続けざまに掲示して、そうしてまた同じ調子で僕のところに戻ってきた。

「できるだけ、目立つところに張ったけど」
彼女は言った。
「あんまり、下だったわね」



案の定、それから数日たっても、新入部員は現れなかった。
僕たちは、ポスターを作る段階からすでに、そう言うことになるだろうとは予想していたが、
実際にこうまで来ないと、さすがに落ち込んでしまう。

おれの、大学生活は
シイタケと一緒なのか。

そう言う思いは、考えてみれば彼女も一緒だろう。

あたしの、もう二度と無い早乙女の季節は
こんなガマ男と一緒なのね。

体長の20%超を占める、彼女の顔に、そう大きく書いてあった。

そんな、お互い不本意なサークルであるなら、とっとと止めれば良かったのだろうが、もうポスターまで貼ってしまった手前、どうすることもできなかった。

カピパラ部長の勝手な目算でポスターには“部長 野中”、“副部長 真島”として、でかでかと連絡先が載せられてしまっていたのだから。
「今思うと」
うんざりした顔のシイタケが言った
「載せるんじゃなかったわ。あんなカピパラの意見を聞いた、あたしが馬鹿だった」

彼女にまでカピパラと認識されていた元部長は、あれ以来、僕たちの前に姿を現すことはなかった。しかし、現部長のシイタケには時々連絡を入れているらしい。

シイタケはシイタケで、初めは他に頼る者がいなかったので、その忠告を、はいはい、と大人しく受け入れていたのだが、この元部長が、余り頻繁に細細と電話を入れて来るものだから、最後には、
「あのカピパラ...。...もしかして、あたしに惚れたのかしら」
などと、根も葉もないうぬぼれに陥るまでになった。

2008-03-21

山之口貘の詩集を買った。




最近はまっている詩人 山之口 貘 (やまのぐち ばく)の
はまっている詩。
詩集 『思弁の苑』より。

せっかく女をつかんだのに、結局振り回して、くたばらせて、
その上投げつけてしまう。

結局、彼が強く求めていたのは

『僕も女が掴めるという、人並みなこと』

だったのだ。

この詩人は、とても貧乏な詩人で、
晩年、胃ガンで入院した際も、親交のあった他の詩人達がカンパして
ようやく入院させたほど。

でもこの人の、家族に対する、特に
娘のミミコに対する目は、とても暖か。

そして、一方で前期の作品 (結婚前の作品) の多くは
こういう、“人並み”を求める旅路のようで、
なんだか共感できる部分が多い。

しかも、恵まれていないのに、
詩は明るい。悲壮な詩は、ほとんど無い。

畳という詩も秀逸。
畳の上に、女房となる女が現れて、タンスが現れて、ちゃぶ台が現れて...、と、
視点を変えてくれる作品。

それから、『猫』
けっ飛ばされた猫が、飛翔して
神の座にまで至り
そしてしなやかに着地する様子が描かれる。

どれもこれも短くて、詩の総量も少ないけれど
その分、無駄のない、隙のない詩を書く人だと思います。


ちょっとおすすめです。

今宵急がし今急がし

【今日やったこと】

研究室の引っ越し準備。

相当大変。

実験、できねえ。

今夜、焼き鳥。

ジャズ、聞けねえ。
まあいいや。

酒は賑やかが、一番。

静かに飲むのが、二番。

泣いて飲むのは...、相手による。


◇◇◇

○▲□ (まるさんかくしかく)

この話は、もちろん、フィクションです。
登場する団体、人物名、その他諸々、ウソ八百。

おとなのいうことを、こどもは、しんじては、いけない。
しんじれば、うらぎられ、そうしてきっと、おとなになってしまうから。

てな訳で、連載のお試しします。
--


見たと言うことを
突き詰めて考えていけば、
やがて、見なかったような気もしてくる。

本当に見たのか
そう問われて、
どこまで己の感覚を
信じることができるだろう

今となっては、その妄想のようにおぼろげな思い出が
真実であったと信じるほか無いのである

いや、妄想なら、妄想でかまわない。
再現性など、この件に関しては、まっぴらごめんだ




当時僕は大学生であり、変化に乏しい毎日に無理矢理刺激を生み出すことに躍起になっていた。大学入学というのは、僕にとっては、いわば大いなる失望の始まりだった。

学園ドラマの大学生の見せる、あのさわやかなきらめきは、どこにあるのか。少なくとも昼時の大学生協の中にひしめく、空腹を抱えた学生達の中に、コロッケ・ハンバーグ弁当を掻き込む、血に飢えた女子学生、男子学生の中に、いくら探しても、その姿はなかった。

期待していたほどの朗らかな人間関係などできず、授業は高校の延長のよう。
挙げ句の果てに、小テストまである。宿題もある。

自分たちの小学校のころは、子供に負担をかける教育は止めましょうと言われていて、宿題なんか、週に何度もでなかったから、大学に来て、こうまで面倒な思いをするとは、正直思わなかった。

面倒な事というのは、続かない物だ。結局、教養の授業なんて、1ヶ月もたたないうちに飽きてしまった。挙げ句の果てに、自分が興味があると思い、選んだはずの専門科目の化学まで、あまたの教養科目と一緒に興味を失ってしまった。

理学部の人間が、理学にすら興味を失ってしまったら、もうすでに、学生としての存在意義は失ったも同然なのだが、やめたとて、なりたいものがあるでもない。せめて大学卒がないと、僕のように骨のない人間には、まともに仕事に着くことすら、難しい。僕はただ黙々と、卒業するためだけに、大学生として与えら得た時間を浪費することに心を砕くことにした。

でも、せめて、身の回りに至極美しい令嬢でもいれば、その子に教えるために、めちゃめちゃに勉強したりもするのだろうけど、幸いかな、この学部は自然科学の看板を掲げていながら、自然の摂理を無視し、男子学生の比率が抜きんでて高い。

遙か遠くに見える、教育学部、文学部の付近には、見目麗しい令嬢が咲き誇れる花のごとくにきらめいているというのに...。この薄暗い鉄筋の校舎では、キノコのような、非常に有益な植物しか繁茂していない。

おそらく、学園ドラマの舞台は、あっちであって、少なくともこっちではないのだ。

それでも、薄暗い林間に咲く一輪のカタクリのような涼やかな花がないではないが...。

池辺のガマのように機能的な顔をした僕には、それを摘むのはあまりにおそれおおすぎ、また、その娘の役に立つためにむちゃくちゃに努力しようとすれば、主席を取るに等しい事を知り、挑む前からあきらめた。

井戸の中のカエルが、高い空を見上げ、ため息をついているように、僕は届かない高嶺の花を今日も視野に入れながら、それにふれることすら、叶わずにいる。

せめて、何か風でも吹くかして、あのきれいな花が、この井戸の底まで、落ちてきてくれないか。その笑顔と、高い香りをそのままに...。

深い井戸を昇る望みも気力もないガマ男には、他力に祈り、すがるのが、関の山だ。



「ねえ、真島君、」
大学一年目にはまだ珍しい、専門科目の講義が始まる数分前に、学部に生えるキノコのひとり...ここでは愛情を込めて、シイタケとしておこう...が片手に数枚の紙切れを持って僕のところにやってきた。

シイタケ嬢はもとより背が小さい。私は座高が高いので、彼女の目の位置は、いすに座った私よりほんの少し上に来るだけだった。

「前に渡した、サークルのポスターなんだけど、もう張った?」

2008-03-20

前書き

以前書いた『コスモス』は
あまりにできが悪かったので、

私は、決心しました。

どうせ、まともな話は、書けないのだから、

当たって砕けろ、くだらないのを書こうと。

で、できてしまいました。くだらないの。

ベースは、悔しいのでコスモスとおんなじ。
でも、話は全く別。

まだ、半分くらいだけど。

時々書きます。

試しにとりあえず、一話読んでみて。

再びジャズ、しているべ

【今日やったこと】

街へ。
最近どうしても、
ジャズが聴きたくなって

しばらく買っていなかった
マイルス・デイヴィスを買いにブックオフへ。
マイルスは、昔人にもらって聞いたCDの『So What』と言う曲があまり印象が強すぎて、時々禁断症状のように聞きたくなるのだが、そのCDを自分のつまらない見栄のため人に呉れてやってからは、聞きたくても聞けない状態でいた。

今回買ったCDにも、同じ曲は収録されていたが、以前の物とはバージョンが違うため ("take" というのか?;後で聞いた話だと、以前の物はたしか“Kind of Blue”と言うアルバムで『名盤』と言われていたものらしい。あれだけは、人にあげるんじゃなかった)同じ曲でも、全く雰囲気が違っていた。

でも、そこがジャズのおもしろいところで(と、勝手に思っているのだが)前に聴いた曲の、似たようなメロディーが、全く違うテンポと、テンションで演奏されており、まるで違う曲のように聞こえ、それでいて、前の曲を彷彿とさせる共通項を確かに感じてしまう。

同じような情景、同じような出来事または同じようなエピソード、記憶であっても、時とともに、あるいは自分の積み重ねた経験、体験によって次第に色を変えていくように、Takeが違うと、同じ曲に再びいのちが吹き込まれ、再生され、セピア色の思い出が、燃え立つ赤に変わったり、青い冷静に沈んだり、土色に淀んだりするのである。

逃がした魚は大きいので、前のTakeの方が良かった気がするが、
前の物を彷彿とさせ、発展している気がするだけ、今のものでも満足している。

また、ついでといっては失礼だが、同時代に活躍したジャズ・ピアニストで
素人のわたくしでも名前は聞いたことのある、ビル・エバンスのCDも買った(二つ合わせて、2000円しなかった。古い演奏は、安くて良い)。

これは、勉強がてら買った物で、以前には全く聞いたことがなかったのだが、ジャケットの、ピアノに向かうエバンスの後ろ姿と、べつなジャケットの、七三分けにした、毅然とした数学者のような姿に、感銘を覚え、いわゆる“ジャケ買い”してしまった(悪い癖だ)。この人は『ピアノの詩人』と呼ばれているそうで、確かに聞いてみると、洗練された印象は、しなくもない。

とくに、これはジャズに限ったことでもないのだが、おもしろいと思ったのが演奏家による曲の違い。クラシックなどでも、同じ曲で、指揮者ごとにこう違う、ああ違うと云々言う人がいるが、基本的に楽譜に忠実なクラシックと違い、即興的な要素の強いジャズでは、この違いは、わかりやすいほど大きい。

良い例が、今回買ったCD冒頭の『枯葉 (Autumn leaves)』。これは、言わずとしれたジャズの名曲で、誰もが一度は、どこかで聞いている、どこまでも切ない曲。

太陽のまぶしい季節、世界中全ての生き物が浮かれている中で、好きだった人に振られ、そのことによって、一足早く秋の始まりを感じた経験のある人には、余計に身にしみる曲。道ばたに積もった枯葉を、足で蹴飛ばしながら、何度思い浮かべたことか。

この曲は名曲なだけあって、有名なジャズの演奏家は、必ず一度は演奏している。
自分が初めて買ったのは、演奏家は忘れたがクラリネットの曲で、枯葉の茶色を連想させる円く、くぐもった音色で、余計に切なかった記憶がある。

エバンスの枯葉は、それに比べると、ずっと洗練された印象。
全4分の曲のうち、有名なメロディーは最初と最後の1分で終わってしまい、途中に
静かで長い間奏が入る。しかし、その静けさを破って、再びハイテンポな主題が帰ってきたときには、すでに枯葉が燃え上がっているのを感じるのだ。
エバンスの枯葉は故に、だいぶ情熱的だと感じた。
少なくとも、期待した (?) 失恋の曲ではないのだが、これはこれで、かっこいい。
ブエノスアイレスあたりの、秋を連想させる。

元々ジャズは、ウイスキーをおいしく飲みたくて聞き始めたのだが、
実際に、この二つは本当に、よく合う。

静かな夜にジャズを隣の部屋の人に怒られないように低くかけて、
少しだけウイスキーを傾け
本を読んでいるときが、一番落ち着くことに最近気づいた。

25歳の趣味じゃねえ、と言われたさ。

◇◇◇

2008-03-19

拝啓、新父上様

【今日やったこと】
泳動...、どころじゃねえ。

パソコンの前で爆笑。

詳しくは数日前の“投稿Oさわへ(思いつき)”
のコメント欄参照。

◇◇◇


hahaha!

いくら、とんちんかんなわたくしでも、
それはさすがに気づいたよ。O沢殿!

病気だったら、しゃぶしゃぶなんて、食べないからねえ。

おめでとう!
オヤジになるんだね。

あの夫婦の子供なんて、
考えただけでも笑えてしまう。

たぶん妙な顔で、妙な性格の、妙な子供ができるんだろうけど、
それは世界で他にない、たった一つの組み合わせであることの、何よりの証。

何が欠けても、何が違っても、生まれ得なかった一個の奇跡。

世界で唯一のゲノム。

同じ材料で、同じように作っても、二度と作れない“再現性0”


おもしろい!

ついに“命”を作ったんだね!

それでこそ、生物学科!


そのうち、気が向いたらお祝いのお電話するよ。


追記;
やっぱりブログするべきだよ。
『新米パパのおろおろ日記 ~ぼくとおくさんと、時々マクワウリ~』
絶対毎日、コメントしてやる!

ふきのとう

【今日やったこと】
二次抗体。

今日からまた大腸菌(予定)

再出発。

同じ港には
着きたくない。


◇◇◇

北海道の春はまだ先だと書いたばかりだというのに、

今朝、生協の建物の日当たりの良い隅をみたら、
ずいぶんと大きくなったふきのとうの群落を見つけた。

中にはすでに花が咲いているものもあり、
そこだけ、一列の花畑。
陽光の中に碧い肩をいからせている。

数日前まで屋根から落ちた雪が積もって、一帯には雪の壁ができていた。
どうやらその影で、少しずつ成長していたため、いままで気がつかなかったらしい。

実家に帰ったときに、母が、それくらいしか食わす物がないのか、
大量のふきのとうの天ぷらを作っていて、
相当量を食べたのだ。
そのときに、さすがに東北でも、北海道よりは春が早いなあとは感じていたのだが。
まさかこんなに早く追いつくとは。

意外と春は近いようだ。

うかうかしていると、人間ばかりが置いてきぼりを食う。

2008-03-18

現代詩への招待?

【今日やったこと】
一次抗体。

すなわち次は
二次抗体。

◇◇◇

連想。

時間が中途半端に余ったので、
頭に思い浮かんだ言葉を、
ただただつないでみた。

なんか意味深。

これも、現代詩の範疇に、入れていいのでしょうか?

--
いつも通りのラジオのアンテナが昨日のことのように
まだ鉄塔の上にいきり立って、
我々の、我々による我々のための人材育成に見切りを付けた。

昨日から果てしなく降り注ぐ流星雨によって、人間達は、
ゴミとゴミの狭間に生きる幾多の虫たちのケラチノサイトの誘惑に負けて
自ずから破壊活動の手伝いをしてみたりしているけれど、
いつまでたっても止む気配はなく

星々の瞬きが詳しく心理を語って聞かせた後で、
きみんちのスペルミスがまだ直っていないのを相当気に病んでいた隣の家の上司が
縁もゆかりもない女郎を一人縁側にあげ、寝そべっている

闇雲に生きる結核持ちの修道女の思惑どおり、金曜日は毎日続いたので
苦し紛れにお茶を濁してみる

ああ今日も、
何もない三月は続き

きみんちの玄関先で先ほど息絶えた女が突っ伏したまま
水をくれえと叫んでいたのを君は聞いたか

黒い黒い誘惑の中でアオミドロが繁茂している様子を
マイクロスコープで冷静に見つめる。

その目は冷たい
その目初メタ位

コロモガエココロガエ

【今日やったこと】

ペプチド設計
プライマー設計

ついでに

人生設計

前途多難。

◇◇◇

最近札幌でも、雨が降り始めた。

根雪達は長い眠りから覚めたように、日に日に解けて、
しばらく見ていなかったアスファルトの地面が顔を出している。

まだ、花の季節にはほど遠いが、
一張羅のダウンジャケットを着ていると、周りから浮いているような気がするぐらい
道行く人の格好も春めいてきた。

春は、浮かれる季節。
また、ともすると憂鬱な季節。

どっちにしろ、何かが変わるのが、春。
今年は、研究以外でも、新しいことを始める予定があります。

あくまで、予定は未定ですが。
前々から考えていたことなので。挑戦してみようと。

さて、うまくいくか。

2008-03-17

夢のない夢

【今日やったこと】
昔好きだった人と

好きだって言ってくれた人と

そうでもなかった人の夢を

一緒に見た。

夢の中で、自分のジーンズのすそに泥がついていたのに気づいて、

洗わなきゃ、と思ったところで目が覚めた。

今日はいているジーンズ
結局泥がついたまま。

洗わなきゃ。

◇◇◇

Oさわへ (思いつき)

【今日やったこと】
また泳動
ディスカッション
次善の策の準備

また金かけます
ごめんなさい

◇◇◇


時々思うんだけど
Oさわの生活こそ
ブログ向きじゃねえ?

今は小学生でも、お年寄りでもブログ持ってる時代だし。
写メから更新できるから、ケイタイあれば十分だし。

アクセストップのブログなんて、
写真と、
数行の文章くらいしかない
シンプルなもんだから、
それで十分。

(むしろ、文字ばっかりの当ブログのようなのは、
気に入ってくれた人しか読まない)

本文より長いコメント、
付けてやるよ

個人的には
マクワウリを365日追った栽培記録“今日のマクワウリ"
を期待しています。

ただし、一つ注意点
google blogはよした方がいいよ。
個人的には goo blog の方が使いやすかったかな。

2008-03-16

オオカミと人間

【今日やったこと】
準備中。
間に合うのか、こんなことしていて

◇◇◇

高校の頃、
進路選択で

文系か、理数系か選べと言われ

相当悩んだ経緯がある。

自分は歴史と理科が好きで
数学と英語が大嫌いだったから

『社理系』というのがあったらと思った物だ。

そして、その遺恨は未だ引きずっており

生物学を志しながら、
趣味は小説の乱読、あるいは書き散らし。
この業界ではおそらく希有な存在。

オオカミと人間のあいのこのような
オオカミ人間の悲しさ

彼に親戚はいたのだろうか。
同じように毛を生やし、
人間ながら生肉を食い、血を吸った

人のいない方へいない方へと生きながら
人のいないことを嘆いている

勝手気ままな愚者への懲罰
孤独という静かな独房での歳月

ワンパターン

時間のつぶし方と言ったら
本屋に行って
帰りにモスによって
何らかの本を読みながら
腹ごしらえをして

時々小さな写真展を見つけてみては
無料というのを確認して中に入って

好きな詩の一節を返す返す経文のように思い出しながら
何でこんなうまい表現ができるのかと、感嘆し、ありふれた悩みにためいきついて

視線の遙か向こうで、車が来ても、人が通っても、
手をつないだままのカップルを見つけて
つながないことの不安について考察して

あれはある行為によってしか、お互いの関係を確認できないためだという
勝手な結論にたどり着き、
つなぐ相手と言ったら、自分の左手ぐらいしかない、右手をぶらぶらさせつつ

小学生くらいの幼い姉弟が、手をつないで
律儀に右を見て左を見て、
雪の上を渡っていく様子を

後ろから、ほほえましく見送ったりして
届かない物を見るような寂寞とした気持ちに
空をつかんで ポケットにしまう

そうしているうちに、いつもせっかくの日曜日は
終わってしまい、
サザエさんのエンディングが明るく流れ始めると
もうすでに、気持ちは明日のほうへ走り始め
休めなくなっていることに気づくのです



(トラックバックの動作確認と言うことで
練習用のサイトに送る文章もかねて)

google blog改造計画

【今日やったこと】
まだ準備
飽きたので
べつなことも


◇◇◇

google blogは
blogとは名ばかりで
トラックバック機能も、コメント機能も中途半端で、
おおよそ、
今、日本で流通しているブログとは異質の物だ。

シンプルで動作が軽いのはすごくいいのだけれど。

でも、せめて、普通のブログの機能は欲しいと言うことで、
いろいろネットを調べて
ちょっと改造してみた。

これで、トラックバックも
できるはず。

2008-03-15

鉄と石と

【今日やったこと】

まだ準備は終わらず

◇◇◇


僕は涙を捨てた。
人々は、自分の泣き言は抱えていても、
他人の泣き言は聞きたくないのだ。

人の泣き言など聞いたって
自分の利益になることは少なく
ただただ、同じ話の繰り返しにうんざりし
ちょっと油断すると、自分まで悲しくなってしまうばかり。

時間は有限なのだ。
余った時間は、エクセサイズにでも使って、
せいぜい余計な体脂肪を落とした方が
自分のためだ。



僕は怒りを捨てた
社会に対し、いくら怒りを感じていても
全ては議会で、国民の代表たる代議委員によって
厳然たる審議の結果議決された既決事項ばかり。

今更、言われても。

官僚は申し訳なさそうな顔で、
皮肉にそう言う。


僕は笑顔を捨てた。
この世界は心から笑えるほど
楽しいことはほとんど無い。

多くの笑顔は
周りが笑っているから笑うという
場に従った作り笑い

お笑い芸人のコントに吹き込まれた
合成音声の笑い声の あのもの悲しさ

「笑え!」

コント番組は僕らにそう強制し
僕らは日中の作り笑いで疲れた
口輪筋にむち打って
それを引きつらす

凝り固まった笑顔のまま
僕らは今日を生きている


こうして僕は血のにじむような努力の末、
一つ一つ表情を失い
感情を失って
今ではようやく、
一人の立派な
都会人に
なれそうです。

付記

『同窓』と言う言葉の語源は自分は知らないが、

おそらくは、読んで字のごとく、同じ窓、と言う意味だろう。

外から見れば、
同じ 窓の中に 映っていた人たち

内から見れば、
同じ 外の世界を 見ていた人たち

あの頃僕らの見ていた世界は
結果的にはそれぞれ違っていたのかもしれないが
飛び出していった窓は、誰も一緒だった。

そうなれば、いずれ帰ってくる窓も、また。

何回かの花見と
海水浴と
紅葉狩りと
雪祭りの後で
ある時ふと
思い出すもの

あの窓の景色
あの同じ窓の 窓枠に収まっている
幾人もの笑顔 泣き顔 まじめな顔 怒った顔 優しい顔 澄ました顔

おそらく人生で これほど他人に対し表情豊かな時代が もはや無いのではないかと
思わせるほどの

『同窓』と言う言葉の語源は知らないが、

おそらくは、読んで字のごとく、同じ窓、と言う意味だと。

同窓

【今日やったこと】
明後日の
論文紹介の準備。

◇◇◇

確か、今日か、明日か、それとも来週だったか、先週だったか
そろそろ、僕らの大学の学科の同窓会的な飲み会が日本のどこかで行われているはずだ。

自分は地理的には“海外”にいることもあるし、
飛行機高いし、このとおり、ちょっと予定もあって
参加できなかったが、いまごろ、楽しく旧知の仲を温め直しているのだろう。

自分は、大学時代の飲み会は
通算するとそれほど参加していない方だと思う。

ただ、大学前半の三年間はほとんど0に近く、
残りの一年ほどはほとんど毎日だった。

同級生との愚痴のこぼしあい。
研究室という慣れない環境だったが、あれのおかげで、
何とか乗り切れたのだと思っている。

金のない学生が、
飲み屋で飲み続けるわけにもいかず、
ビール風で最も安かった『ドラフトワン』なる豆飲料を箱買いし、
研究で使う低温室に保管して、毎日ちびちび飲んでいた。

相方は、いつも“柿の種”
これも、安いし、ありふれているから。

柿の種を、二袋ほど開け、
ドラフトワンを2缶開けるか開けないかの内に
飲み会はいつもお開きだった。

夜景のきれいな高層にわざわざ移動し、よりきれいに見るために
部屋を真っ暗にして酒を飲んでいたので、
その階の住人には、大いに不審がられた。

あの頃のドラフトワンは、どうしてあんなに、おいしくて
苦かったのだろう。

口を開けば、ため息ばかりが出た飲み会だったが、
ばかばかしく、青い晩春の一こまには違いない。

今夜は、柿の種と、ドラフトワンでも帰りに買って、
マンションの硝子戸の中から一人、
同窓達の無事と発展を、心から祈っています。

2008-03-14

回帰不能点 (The point of no return)

【今日やったこと】

二次抗体。
繰り返す繰り返す

◇◇◇


先月から、ずっと同じ作業を繰り返していることから
気づいた人は気づいたかもしれないが
実験が具体的に
前に進んでいない。

もとより、時間のかかることは承知の上だったが
先生の設定したリミットをそろそろオーバーする頃になり
今後どうするかをきめるため、少しばかりディスカッションをしてきた。

先生は私の結果さえ出れば、すぐにでも、論文を出したいという。
しかし、肝心の結果が出るめどがない。

3つの大きなハードルのうち、一つはあっさり超えることができ
この調子ならと意気込んでいた矢先の足踏み。

すぐにでも論文を出したいと、数ヶ月前からおっしゃっていた先生は
数ヶ月たっても結果のでない自分にうーんと唸って考えておられたが、
「でも、やっぱり、君の結果があるとないとでは全く違うから」
とおっしゃって、論文を後2ヶ月待ってくださるとおっしゃった。

実は自分としては、なかなか結果が出ずにいるのに最近相当悩んでおり、
(暗い詩が多かったことからも分かるように)、実家に帰っても相当悩み、
ともすれば、『研究など、やめようか...』などという言葉がのど元に突っかかってくるのを、何とか何とか押しこらえていた。そう言うとき、親というのはすごいもので、母親は別として、普段マイペースな父親は、息子のそう言う弱気な様子に気づいたらしい。ジーンズの前ポケットから、おもむろにドリンク剤を取り出して (明らかに不自然だ) 私に勧めたり、買ってくれたこともない缶コーヒーを買ってくれたりしていた。
ただし、父は私に元気がないのは、どうやら学生身分では叶わぬ恋をしているからだと勘違いしたらしく、「いい人がいたら、時期は考えるな」と、的外れなことを言っていた。私は、父の勘違いにはあきれたが、それでも、親らしく、子供の弱気を見抜いた点には感謝した。

そんな、すれ違い親子の感動秘話の後で、私はようやく勇気がでて、先生に
最近実験がうまくいっていないことを打ち明けたのだった。

二ヶ月待ってくれるというのは、実は自分はそれほど期待してはいなかった。
先生はずっと早く論文を出したがっておられたし、
自分に期待できないなら、待ってもしょうがないと判断するのが常識だ。

競争の激しい業界で、なかなか手間取る自分を気長に待ってくださる決心をした
先生には本当に感謝している。

とにかく、結果を出さねばね。
何より自分のために、そして、期待してくれる人のために。

まあ、当分は暗い詩ないし文章が続くと思いますが
あまり気にせずいてください。

頭の中の不安をはき出しているだけですので。

再生

【今日やったこと】

泳動は続く
思索も

◇◇◇


あの日東京が滅んだ後も
人々はいつもの自然災害の時のように
復興に向けて歩き出したのだが

いざ復興してみると
できあがったのは
依然と変わらぬ社会だった

一度滅んだからと言って
子供達の給食からピーマンが除かれることはなかったし
宿題が少し減ることもなかった

お母さん達はやっぱり
お父さんの給料のことでぶつぶつ言っていたし
お父さん達はやっぱり
かみさんのことで頭を悩ませていた

おじいさんおばあさんが突然奮起し
往年の若き青春の日々を再び取り戻そうと老骨にむち打ち朗らかに日比谷公園を闊歩する
事はなかったし

NEET達が
日本経済の今後の展望について
各紙論説委員の主張の相違点を総括し2チャンネル上で白熱の議論をすることもなかった

引きこもりは相変わらずアウトドアとは無縁だったし
詩人達はやっぱり世間とは縁がない

全てはあまりに当然で
以前の不自然が懐かしくなるほどに
退屈な日々が帰ってきたのだ

若者達はスリルを求め
脱法すれすれの行為を
夜ごと繰り返してはいたが
それすら一つの壊滅を挟んで
ずっと続いていたことだ

当たり前だった生活を
当たり前でない出来事の後で
当たり前のようにしてみせる

人は東京が滅んだとき
それが己が権利であるかのように
あるいは新たな闘争であるかのように
拳振り上げ戦ったのだが
結局至るところは
街のはずれのひなびたお化け屋敷で
ありふれた恐怖をむさぼる日々

非日常という物を栄養素のように
必要としていながら
日常という足場から
軸足を移すのをためらっている

それを平和というのなら
欲求不満の固まりだ

人間という動物に組み込まれた
戦闘モードの神経回路は
今日もバッティングセンターで
バットを正しく握るために
ノルアドレナリンをテノヒラに
とりあえず分泌している

孤独に関する考察

【今日やったこと】
泳動。

ながれろながれろ。


◇◇◇


『おれのことなど、誰も考えちゃくれない』
『誰一人、おれを支えてくれる人はいなかった』

ひとり者の最後のあがきを
『そんなはずはないでしょう』
と言う具体的な言葉によって否定されたときの
取り残された寂しさ

船から放り投げたロープが
陸まで届かず 着水したときのような
あの小さな水の音にも似た

それを孤独と呼ぶのだ

そして孤独な人間は
己の失敗も苦労も何もかもを
全て恵まれない自分自身の境遇のせいにしてやっと
二本の足で歩いているので

突然突きつけられた具体の刃によって無惨にも
打ち砕かれてしまう

周りに支えてくれる人間のいること
予想以上に世界は好意的であること
その事実を受け入れられずに
新たな孤独の種を見つけそれにしがみつく

あるいは
己のよりどころを失って
真昼の影のように
太陽を憎みながら小さくしぼんで消えてしまう

いずれにしろ孤独な人間の求める物は
彼の孤独を認めてくれる人間なのだ

孤独を認める隣人によって
孤独な人間が再生するという矛盾に満ちた状況

陰を日向にするような そんな状態のない限り
孤独は孤独のまま
世界の隅で
湿り続ける

飼い犬の午後

【今日やったこと】
もう寝ようかな
明日の予習

◇◇◇

飼い犬の優しさの
半分でも僕が持っていたら
きっと僕はだまされるだろう

なついた人こそ真実と全てを投げ出す
その従順さに純朴さに
人間は舌なめずりをするから

飼い犬の優しさの
半分でも君が持っていたら
きっと僕は幸せだろう

もはや何も考えなくてもエサさえあげて
時々体をさすってあげれば
君は笑ってくれるのだから
時には散歩もするだろうし
病気の時には病院にも連れて行ってあげるのだろうが
たったそれだけのことで
君はなついてくれるのだから
真っ黒に濡れた黒目がちの瞳で
口元をゆるませ 穏やかに
僕を見つめて くれるのだから

わかりきったことしか 考えていないという
その最大の功績に
人間は密かに感謝しながら
何も考えていないようで
実はいろいろ考えている
人間の難しさに 心の中で ためいきついているのです

2008-03-13

里での話

【今日やったこと】
復帰。

でも、今年夏に控えた、引っ越しの下準備で、
泳動すらできず。
単純作業

嵐吹く
単純作業の
わびしさよ

駄作

◇◇◇


山ほどの悩み事を土産にして
帰省したふるさとに

静かな夜更け
苦い酒を飲みながら
すでに酔いつぶれた父親と
テレビを見たまま寝てしまった母親とを見る

ぱっかりとあいた父親の口の暗がり
母親の大きな両の鼻の穴が さっきからずっとこちらを見ている

母はそうして眠ったままこたつの中で 一つ大きく 放屁した
音はまもなく静かな夜に吸い込まれるように消え
何もなかったかのような静寂が訪れる

そうだったのだ

袋こそ違えど
自分はあの放屁と
同じ腹から生まれ

何の秘術か命となり

夢を持ち野心を抱き

飢えと渇きと焦りと失望とをおぼえて

こうして今日 里帰りしては 苦い酒に顔をゆがめている

放屁と糞と尿との兄弟でありながら

何を根拠に物を知ったような顔をして

何と高邁で身の程知らずな葛藤など 自分は抱えて来たのだろう

そう考えるとおかしくなり
父母が起きることも気にせずに
僕は一人で大いに笑った

忍び寄る夜の静寂は
一人では冷たく またあまりに寒かったので
手に持った見栄とうぬぼれと知ったかぶりを炭火の中におもむろに放り込み
それをもうもうと燃やしながら 崩れゆく己を見つめていた

煙のしみた両目には
涙ばかりが溢れてきて

母親に気づかれると面倒だと思ったので

泣いているのだと悟られないように
僕は大きくあくびをした

2008-03-10

ウェポン

昔長編に挑んで、
失敗した習作の例その2

精神的に、どん底の時に書いたこともあり、
内容があんまり不健康なので
嫌な人は是非読まないで。

ちなみに、勘違いされるといやなので、挙げておきますが、
ここに挙げた独房の彼の趣味は、私の趣味とは全く一致しませんので
あしからず。知ってる人は分かってくれると思うけど。

書いたとき頭の中に思い描いていたのは
芥川龍之介の河童です。
もちろん、比べるまでもありませんが。

できるだけ、男を気持ち悪く表現してみようと思ったために
できる限りの手法を使い、
結局物語が破綻しました。


---



「僕は自分が一個の核兵器だと気づいたとき街に飛び出してすれ違う沿道の人々一人一人に言ってやったんです。オレは怖いぞ、核兵器だぞって」
男は身振り手振りを交え、熱っぽく横山に語った。目はおそらくそのときの歓喜を見ているのだろうか、常にあらぬ方向を向いているが、美しく磨かれた黒いガラス玉のように濡れていた。

「沿道の人々は皆、さも恐ろしい物を見たように一様に恐怖していましたよ。中には泣き出す人もいました。いやあ、あなたにもお見せしたかった。昨日まで僕を殴っていた連中までもが」
男はそこまで言うと興奮のためかつばをごくりと飲み込み

「一様に恐れをなして、僕を避けだしたのですから。僕はおかしくて、そいつらを追いかけ回してやりましたよ。その、逃げっぷりと言ったら、他の誰より板についてたな。いや、愉快でした。」
男は楽しそうにへへへぇと笑った、ほお骨が多少でているためであろうか、年の割に深いしわがほお深く現れた。

「皆、僕の恐ろしさにやっと気づいたのでしょう。今までが今まで、ずっと僕をたいしたことのない物として軽んじてきたのですから、この発見は意外だったでしょう。それはそうです、僕自身でさえ、そのことに気づいたのはごく最近の話なのですから」

「それはいつの話?」
横山が質問をいれた。灰色の地下房には他に誰もいない。沈黙の中にその低い落ち着いた声は冷たく響いた。

男はまたへへぇと笑った。
何か恥ずかしいのか、横山から目をそらし、床に膝をついたままもだえている。

「昨日の午後、昨日の午後の話です。そう、昨日の午後、ふふふ」
男の目は、そのときいったい何を見ているのだろう。鉄の独房のつめたい天井の隅をうっとりと眺めながら、表情はゆるみきっている。

「昨日の午後、僕は一人の女性を食べたんです。はじめは指をこりこりかじって、そのうちおへそを舐め取って。頭は髪の毛が多くて、食べにくかったけど、鼻の先はなかなか食べ応えがありました。前歯でちょっとずつかじって、おいしくおいしく食べました。ほら、あそこの冷蔵庫に」
男はそう言うと、独房の隅を指さした。

「昨日の食べかけの残りがまだ入っていると思います。女性一人はさすがに僕には多すぎたので、切り刻んでばらばらにして、冷蔵庫にしまっておいたんです。これでいつでも、女の人を食べられます」
男はそう言うとまたへへへと笑った。

「いったい人間というのは、特に女性というのは、どうしてこんなにおいしいのでしょう。やせるやせると言いながら、その体は皮下脂肪の固まりです。確かに僕は、げそげそにやせた女の人より、脂肪のついたよく肥えた女の人の方が 大好きです」
男の口元はだらりとあいている。そこから唾液がどろりと漏れて、冷たい床に滴った。
男はそれを気にする素振りもない。

「ああ、いいなあ。また僕も、女の人を食べたくなってきた。ほら、あそこの冷蔵庫にです。あそこの冷蔵庫に、」
男は横山の方を見たまま、後ろの隅の暗闇を指さす。

「あるんです、入ってるんです。僕の、僕の女の人が、おいしい、」
男はまた、大きくごくりとつばを飲み込んだ。
「おいしいおんなのひとが。」

そう言うと、また、へへえと笑った。

「どんな女の人なの」
横山が再び問うた。その声はこの鉄の地下房にあって、木のような鈍い響きがある。

「よく肥えた、よく肥えた女の人です。確かに僕は肥えた女の人が好きですが、あんまりふとっちょは好きじゃありません。どっぷりでっぷりしたのが好きです」
男の口元から再び滴りでた液体は止めどなくあふれ、膝元をぬらし始めた。男はそれを、ジャケットの裾でじゅるりとぬぐった。男の髪には数本の白髪が見える。

「きみが食べた女の人はそれが最初?」
横山は男が恍惚として、いつまでも話す気配がないので、改めて聞いた。
男は横山の方をむき直すと、

「いいええ、女の人の前には、男の人も食べてみたことがあります。最初に食べたのは父親です。次に妹です。姉さんです。母さんです」
--

あーあ。救われねえ。

妄想の赴くままに、筆を走らせてみました。
太った人が嫌いなのに、どっぷりでっぷりしたのが好きですって、どういう事?

まあ、前後脈絡考えてませんでしたから。

それでも、『コスモス』よりは様になった気がする。

しばらく修行します。何事も。

休暇の前に

【今日やったこと】
その他諸々
身辺整理

ウェスタン、しなかった午後。


◇◇◇


実家に...。帰らせていただきます。
数日だけど。
正月、帰ってないし。

ここまで連続で更新してきて、急に更新が止まると、
心配されるとひどいので(うぬぼれ?自意識過剰?)
一応挙げておきます。

変わりと言っては何ですが、昔、一度長編に挑んで、失敗した
物の例を挙げておきます。

あんまり不健康なので、途中で止めました。
そう言うのが嫌な人は、読まないでください。

まあ、小説って、
おおむね不健康な物だと思うけど。

2008-03-08

感受性の発見

【今日やったこと】
二次抗体
もうなんども してきたこと。


◇◇◇


解き放たれた真空が、周りの空気を吸い込むように
人生におけるあまたの喪失が感受性の源だと気づいた

失ったことで生まれる虚無

それを補おうとする外気の流れ

うしなうたびにうしなうたびに

宮沢賢治は輝きを増し 中原中也は重くのしかかり

太宰治はいとおしくなり 安部公房は塔のように聳える

見えなかった言葉が、色が見えるようになり
感じられなかった音楽が感じられるようになって

見えていると勘違いしていた自分の
聞こえていると思っていた自分の 幸せな慢心が
恥ずかしくてしょうがない

このまま 長い人生
幾多の喪失の果てに、やがて全ての物を失ったとき
すべてがすべて すっからかんになってしまったとき

世界はどれほど輝くだろう

ただ一つ分かることは
そのとき、たとえ自分は孤独であったとしても
世界を憎むことはもはや
できなくなっているだろうと言うことだ

ウナギのわめき

【今日やったこと】
昨日の続きウェスタン


◇◇◇


ネットでニュースを見ていて、思わず憤ってしまった。
愚の骨頂

(asahi.comより)
代理出産、法律で原則禁止に 学術会議が最終報告

2008年03月08日00時36分

 日本学術会議の「生殖補助医療の在り方検討委員会」(鴨下重彦委員長)は7日、代理出産の原則禁止を盛り込んだ「生殖補助医療法」(仮称)を定めるように求めた最終報告書をまとめた。法律で、営利目的の代理出産をあっせんした業者、実施した医師、依頼者を処罰対象とすることで規制に実効性を持たせようとしている。一方で、公的機関の厳格な管理のもと、試行(臨床試験)の道も残した。

(中略)

 報告書では、子宮がない女性にとって、代理出産以外に血のつながった子を産む方法がないことから、公的機関の管理と法律の規定する要件のなかで、試行として実施されることは考慮していい、とした。

 試行的な代理出産で子どもが生まれた場合、産んだ女性を母親と規定。外国で生まれたケースも含め、依頼者との親子関係は、養子や特別養子の縁組で認めるとした。

(以下略;太字は筆者)



いつも思うんだけど、「親子鑑定」と言う場合には法的にもDNA鑑定を行ってきめているのに、
どうしてこの問題では遺伝上の親が親にならないの?

母親だと言うときは、その子が誰のおなかから生まれたか、まで、証明しなくてはならないの?

男 (精子提供者) は法的な意味で、父親に認定されるのに、母親 (卵子提供者) は認定されないことがあるなんて、不平等じゃないの?産んでこそ母、ということ?腹を痛めない母は母じゃないの?

(何となく、以前の「産む機械発言」のにおいが...。)

そのうち、胎児の体外培養が可能になったら、その子の母親は誰になるの?
培養器?それとも、母親の欄は、空白?父親しかいないことになるの?

一切合切非科学的。不合理、矛盾。
事情は知らないけど学術会議のメンツは、どんな人たちなんだろう。
答えはすでに決まってたのかな。もしかすると。

酔客

【今日やったこと】

先輩に勧められて
少し飲んだので、
もう帰ろう

◇◇◇


スピッツの『うめぼし』の詞を
越えるすべが見つからずにいた夜

手に握りしめた ラガーの空き缶

溶けないスキムミルク

新聞の紙面を飾るリリーフエースの若い横顔

蛍光灯の明かりはまぶしく

白卓の反射は明るく

全て白の光の中で
不釣り合いなほど色のついたモザイクが一人
ここにいていいのかと疑念を抱きつつ

電源の切れたテレビは黒々と
華やかな世界の真実をあばく

あれもこれも全て虚像であったとテレビは言うが
虚像の果てに真実があったと妄信する信者は一人

虚像を虚像と信じる勇気も持てぬまま その場しのぎの笑顔の種で
満足している

鼻の下なげえ、あの面で
どの面下げて生きてんだ

こんちくしょうめ
あんちくしょうめ

2008-03-07

未必の故意

【今日やったこと】

まだまだ泳動中

腹減った。

◇◇◇


子供が大人になるために
覚えなくてはいけない言葉は
たった一つしかない

『実は...、』

もうそれだけで

たくさんだ。

日本のチャップリン、だとか

【今日やったこと】
夜中の泳動。

ながれるながれる
◇◇◇


夜中一人で、実験していて
いつまでも思うようにいかない、この研究に、
この人生に
一人小さく ため息ついて

いるときに

頭の中をいつまでも ぐるぐると 流れている曲


どおせおいらはやくざな兄貴 
わかっちゃいるんだ妹よ

いつかお前が喜ぶような 
偉い兄貴になりたくて

奮闘努力の甲斐もなく 
今日も涙の

今日も涙の陽が落ちる
陽が落ちる


気づくと思わず がに股で歩いてる。


ちなみに、
この曲、いろいろバリエーションがあるとか


あても無いのにあるよな素振り
それじゃあ行くぜと風の中

止めに来るかとあと振り返りゃ
誰も来ないで汽車が来る

男の人生一人旅 泣くな嘆くな
泣くな嘆くな影法師 影法師


他にも


どぶに落ちても根のある奴は
いつかは蓮の花と咲く

意地は張っても心の中じゃ
泣いているんだ兄さんは

目方で男が売れるなら こんな苦労も
こんな苦労も掛けまいに 掛けまいに


どれも、妙にしみるねえ...。

おれのじいさん、浅草育ちなんだよね
その娘の母ちゃんは、けんかっ早いし

怒ると二言目には
「てめぇ、この馬鹿野郎」
だった。

おれも、ぶらりさすらおっかな、かばん一つ下げて。

(以上斜体部は『男はつらいよ』の主題歌より)

Comfort eagle

【今日やったこと】
昨日の続き
がんばれ二次抗体。


◇◇◇


誰も知らないアメリカのロックバンドの
誰も知らない曲をラジオで聞いて
その歌が頭の中でぐるぐる回ってる

あからさまにその影響が出てる。



建築せよ建築せよ!

我々の時代を我々の世代を!

永遠に朽ちることのない鉄の墓標に汝と汝らの名を刻むのだ
忘れられないことこそが 汝らの生きる意味 生きた証拠 生きる目的 唯一の存在理由

忘れられては終わりなのだ メモライズせよメモライズせよ
我が名を我らを永久に

いずれ朽ち行くこの身なれど
プラスチックディスクに穿たれた磁気情報の羅列と貸せば
その名は世界の至る所にウイルスのごとくばらまかれるであろう

我が名は残る永遠に残る
たとえ我死すともファイルの断片に 報告書の片隅に
顧客リストの末端に ダイレクトメールの宛先に

ひとの記憶など当てにはならぬ
それを知る人がいなくなってしまえばそのような記憶は朽ち果てる
あるいは発酵し変性しすでにその新鮮さも失って
あらぬ噂と化すだけだ

そのようなふがいない記憶にすり込ませることを生きる目的とせずに
世界にその名をばらまくのだ
100年の時代の後に生き残るのは 多くの友を得た者より
引きこもって名をばらまいた数人の賢者

我らの不滅はすでに達成された
その名は死とともに我らを離れ永久無辺に世界を巡る

終わりのない情報の渦を留まることなく輪廻するのだ

問答

【今日やったこと】
寝ようと思ったのに、
仕事発見。


◇◇◇




『あなたは人間が 嫌いなのですか』


『ええ、嫌いです。』

『人間という種が無くなって悲しむのは人間だけでしょう』

2008-03-06

眠りにつく前に

【今日やったこと】
一次抗体O/N

もう寝よう
明日早いし
◇◇◇


最近感銘を受けた言葉。


『人生は一行のボオドレエルにもしかない』
-- 芥川龍之介

『女房は死んだ、俺は自由だ!!』
  -- シャルル・ボードレール

アーティファクト

【今日やったこと】
一次抗体の合間に

いろいろ考えてしまうこの頃
こういうときは
書いて書いて書きまくる
見境無く


◇◇◇



アーティファクト
アーティファクト

人工生成物

自然の力によっては生まれなかった存在
自然界に存在し得ない存在

そもそもそれすら望んで生まれたわけではなく
場合によってはできの良い父親に恵まれた不出来の息子のように
己を創ったことを恨んですらいるのかもしれない

虫を殺す遺伝子を植え込まれたマメなどは
己の花をしたって飛んでくる美しい蝶の
その忘れ形見の幼い芋虫すら
その手の内で殺してしまうのだ

青い色を獲得した薔薇などは 
在野に生まれた下賤な親株には 
決して存在しないこの色をある意味誇りに思っており 
気高く凛と澄ましているが

野にほころぶ親株のように
自由にはびこり咲き誇り 受粉する夢を 永遠にかなえることはない

この無菌なる部屋から飛び出して
野外に吹く風にその身を揺らすことですら
彼らにとって容易ではない


いぬもねこもかいこもぶたも
やぎもひつじもにわとりも

以前はひとに牙向けたこともあったかもしれないが
今はすっかりその牙もそがれ

小さくなったり大きくなったり、泳がされたり食われたり
毛を刈られたり茹で殺されたり

子孫を残す天然由来の目的に身勝手な人間の創った存在理屈を押し着せられ
のうのうとした顔をしながらその瞳は
真っ直ぐに人間を見ている

傍ら

【今日やったこと】

未だウェスタン
あきらめない
あきらめられない

あきらめたい...?

◇◇◇


もしも月に人が住んでいたら
いつも世界の傍らにいて
いつまでも世界の本体とは
一緒になることはできずにいる
その月に もしも人が住んでいたなら

ほほえみも涙も
戦争の炎立つ夜も
平和の基の築かれた朝も
いつも世界の傍らにいて
それを見ている立場にあって
直接どうすることもできはしない

ともに喜び祝うことも
涙を流し励ますことも
手を取り合って戦うことも
肩組み合って歌うことも
世界の傍らであるが故に
その本質とは相容れないが故に
ふれあうことさえかなわずにいる

近づいても近づいても遠ざかるのはその幻影
そもそも近づいてなどいなかったのだ
それは元々手の届かないほど彼方で、目の届かないほどの距離にいる何かに向けて美しく微笑んでいるだけだった

肩組み合って笑う彼らを
月は静かに見つめたまま
その笑いの対象にも原因にも結果にも因果のどの位置に置いても自分が関係していないことを冷たく知りながら
そして現在と過去と未来のいずれの位置に置いても自分がその場に引き出されることのないことをうすうす悟ってはいながら
それでも思わず胸を押さえて 心配だけはしていた自分の愚かさを 静かに 恥じ入っていたのです


昔長編に挑もうとして
見事に散ったテーマ
短くまとめてみたらこっちの方がよっぽどまし
(ちなみに長編の方は、酒飲みの不倫の話に発展して挫折)

空想科学者

【今日やったこと】
大腸菌、久しぶり。
PCR久しぶり。

すっかり忘れてる。
◇◇◇


夜。実験が長引きそうだったので、コンビニへ出かけ、ガラナという炭酸飲料を買った。

雪国のあつすぎる暖房がのどを渇かしてしまうので、それを潤すためにそもそも
飲み物を買おうと思ったためなのだが、結果的に買ったのは、普段でも飲まない甘い炭酸飲料だった。

甘さ控えめの時代にあって、その炭酸飲料は、昔からある古い物で、
故に、昔気質の強い甘さを今に残していた。

口に含むとその炭酸は強力で、暖かな舌の上で、人工的な香料の甘酸っぱい香りを
目一杯に振りまいてくれるのだが、飲めば飲むほど、のどが渇いた。

その甘さにくどいとも思ったが、それを捨てることはできなかった。

シャープな切れ味のコーヒーより、跡を残さない緑茶より、
口を潤すだけのミネラルウォーターなどよりも、

くどいほどの甘さを口の中にいつまでも残ししつこくしつこくひけらかし続けるこの炭酸飲料の方が素朴で、優しいのはなぜなのだろう

食べきれないほど皿によそうことを、何よりのもてなしと考える田舎の人々のような
人を一人にしてくれない優しさに反発し、今頃になって恋しがっている身勝手な自分に気づいた、今日という日に。

暖かい部屋に置かれた炭酸飲料はふたを開けるたびに、
ぷしゅうと小さく音を立てる。

誰もいない実験室の片隅にあってそれは小さなため息にも聞こえた。

心からひとと馴れ合うこともできず、いつまでも一人に慣れないままに
自分の心は未だに何の結論も出せずにいる。

自分にとっての幸せを求めるための物のはずだったこの旅が
その目的の達成という点においては手がかりすら得る事ができずにいる。

友人の多くが脱したモラトリアムに未だしっかりととらわれた曖昧模糊とした精神を破れた内蔵のように引きずり、
見えない物を追いかけて、見えてしまう物を遠ざけながら、
都合のいいピースばかりを貼り合わせ、空想のジグソーパズルは完成する。


『心象のはひいろはがね (灰色鋼) から
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲模様
(正午の管楽よりもしげく
 琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ』

--宮沢賢治 「春と修羅」より抜粋

2008-03-05

きのうのあした

【今日やったこと】
ウェスタン。

西へ、東へ。

◇◇◇


長編を勧められたのはうれしいけど...。
やっぱりなかなか書けねえなあ。

短いのをこつこつためれば、
原稿用紙100枚くらい、いくよね。


僕らは、大人を滅ぼすことにした。

小銃で武装し、ロケット砲と迷彩服とサバイバルナイフを携えて

彼らにはきっと僕らの武器は見えない。

僕らがそんな完全武装していることすら知らない。

そんな彼らを、僕らは次々に葬った。

目が合ったら、ばん。

通りがかりに、ばん。

車の後部座席に載って後ろを向き、自動小銃を乱射した。

人を殺すのはとても楽しくて、僕らは思わずきゃっきゃと笑った。
憎い大人は次々倒れ、僕らは勝利を味わった。

だいたい大人は勝手すぎるのだ。
彼らは僕らをしかれるほど、自分は正しいことをしていない。

酒と血と香料と肉のにおいがする大人の死体を積み上げながら
僕らは僕らの時代の到来を感じた。

数年後、僕ら戦争の勝者が社会を十分に牛耳っていた頃
通りすがりの少年と、思わず目があったとき、

僕はその子にすでに撃たれたことを知った。

急げど回る

【今日やったこと】
昨日の結果はいまいち

忙しくなりそう
◇◇◇


ある日世界の片隅で

ニコラという男が 倒れた塔の下敷きになり 息絶えた
その名前は 所持品のパスポートから分かったのだが
彼の妻は 彼の名はポールだと思っていた

その日彼の父はいつも通り街の路地裏に出て
近所の悪戯小僧たちが サッカーボールを追いかけているのを
楽しそうに見つめていたのだが
そのとき彼が思い出していたのは ニコラではなく 幼いとき同じように路地裏を駆け回っていた 兄エンリコのことだった

彼の恋人だった女は
住みならしたアパートの窓辺から
アドリアの海の変わらぬ輝きに一瞬目を奪われていた
かつて将来を誓ったパウロと 良く過ごした白砂の小さなビーチに目を移したとき
家の奥で電話が鳴った

彼の母は そのときすでに亡くなっていたが
生前残した遺書には まだ1歳にも満たなかった末っ子のマルコを心配する
文言が長々とつづられていた

兄のエンリコは仕事場で彼の死を知ったとき
一瞬驚いた顔をしたが 葬儀の日付だけ簡単に聞くと
秘書に 奥に通した顧客に紅茶ではなくコーヒーを出すように指示した
彼は弟が結婚していたことをその時初めて知った

末っ子のマルコは横たわった兄の遺骸を目にしたとき
この人のことは何も知らないことに気づいた
いつも兄弟3人でいながら
この兄の 夢も希望も興味も何一つ自分は知らなかったと気づいた

2008-03-04

がれきの城

【今日やったこと】
二次抗体。

さて。


◇◇◇


筆の走るまま書いてみた。

O沢に心配されそう。



東京という街から もはや見捨てられた一人の男が 都心の真ん中に城を建てた

それはがれきの城 用済みとなり捨てられた 幾多の 骸の城

はじめ 小さな犬小屋ほどだったがれきの城は 毎日の忙しさに 誰も気づかぬうちに

一軒家ほどの大きさになり やがて 周りのビル群と規模を競い始めた

捨てられたがれきはうずたかく積もり

時々何かの悲鳴が聞こえる

はじめ がれきを集め この城を建てていたのは男一人だったのだが 気がつくと

男がもはや手をかけずとも がれきは次第に集まってくるようになっていた

都会の 清潔を信条とする人々は この城に 清潔の生け贄となる腐食物を捧げ 何食わぬ顔で 世の清潔をたたえている

自らが清潔を食べ 汚物をまき散らす存在の一つであることを かき消すために
水に不潔を吸わせている

都会の 負の側面に支えられた がれきの城は やがてみるみる大きくなり 東京タワーすら飲み込んでしまった 東京の人々の象徴は いつしか あのような電波の塔のごときではなく この偉大に積み重ねられた がれきの城となっていた

それは使うことを許されたものたちの 使ったことの証明
高度に文化的な生活の遺産

健康な若者に 毎日たくさんの垢がつくように

それは街の若々しさと 代謝の象徴なのだ


がれきの城の成長が止むことはない 

普通の建築物が いずれ至るがれきに向けて 立ち続けているのに対して

このがれきの城は 始まったときからすでに がれきだったのだ
もはや この汚物の山の成長を止める手だてはない

幸いにも この城の出現を 怪訝に思う 有識者はいなかった
人々は少なくとも自分の家さえ清潔であればかまわないのだから

においが家まで届かなければ 高いお金をはたいて買った 琥珀色の香水が邪魔立てされる心配はない

青虫一匹ついていない 完璧なレタスと 無菌の瓶に詰められた高潔なるドレッシング

ミュータンス菌を一匹残らず滅菌する強力な界面活性剤によって隅々まで磨き上げられた真珠のように純白をたたえた健康な歯を用いて

それをばりばりとかじっていれば 人々はまだ 幸せなのだから

今日も がれきの城に日が沈む

風に揺れるセイタカアワダチソウの群れが アキノキリンソウの群れを駆逐した日 

   

1E -24 (涅槃寂静)

【今日やったこと】
ブロッキング。

腹減った。


◇◇◇

今日はなんだかいろいろ思い浮かぶので
あること無いこと、書けるだけ書いてみる。


全てを失った ある夜に

短い眠りに落ちた

後で時計を見ると1時間程度のごくごく短い眠りであったのだが
僕はしっかり 夢を見ていた

はじめに見たのは 足だった

金色に輝く 大きな足

京都あたりの大仏の足 あるいは法衣の裾が見えていたので 菩薩だったのかもしれない

僕はその金色の ところどころ金箔のはげた 美しい足を まじまじと見つめていた

夢はそこで一度途切れ 場面は変わる

僕は 古い木の飾り気のない長テーブルの席に座っている

そこはお寺の境内 石庭の白い小石の上 そこにテーブルが出され 僕はそこに座っている

落ち着いた雰囲気の まだそれほど年取っていないお坊さんが 静かに 僕の前に ご飯の盛られただけの皿をおいていく その脇には また別のお坊さんが あまり見たことのないような 漬け物が載っただけの小皿をおいて言った

『源氏漬けです』

その漬け物の名を僕は知らなかったが 漬け物はどんな名前でも似たような味だろうと思いつつ恭しく頭を下げた

源氏漬けをご飯にのせ 水をかけて 食べた

さほど珍しい味ではなかったが ずいぶんと久しぶりに 本当に食事をいただいた気がした

食べている間に目が覚めた

体は寒くて震えているのに

心臓は早鐘を打ち ずいぶんと汗をかいていた

心臓の音がうるさくて 寝付けないので

そのまま起き上がって 朝が来るのを待った 

日々

【今日やったこと】

ウェスタン 少し泳動しすぎた。

まあ、大事なし。


◇◇◇


疲れた(憑かれた?)のでもう一つ。


深い深い山の奥で 一人の老人が 今まさに息を引き取ろうとしていることに 気づく人はいない

たとえその家族がその周りを取り巻き この 彼らにとって無二の人物の 死を嘆き 悲しんでいたとしても 埼京線を走る 一分刻みの電車が 思わず走るのをためらうことはない

その老人が 思い残した 小さな孫の小さな頭をなでようとして 手を伸ばそうとしている刹那に 丸の内の高層ビルのオフィスの一角で いつの間にか中堅に数えられるようになったOLが 人数分の紅茶を入れながら 周りに聞こえないほど小さな ため息をついていた

老人の言葉は思いの外小さく 長年連れ添った老女は ただでさえ遠くなった耳を口に押しつけんばかりにしてそれを聞き取ろうとしているが 昨日直したばかりのコーヒーメーカーには今日も『使用不可』の張り紙が貼られている

老人は絶命するとき 天井を見上げ なにやら一言つぶやいたようだが それを聞き取れた人はいない ある者は老女の名であったと言い またある者は 孫の名であったと言い 別な者は老女すらも知らない 女性の名であったという 

東京のオフィスビルの片隅で すっかり肩身の狭くなった 喫煙者が マルボロの赤い箱を握りつぶしながら大きく一つ くしゃみをしたようだが 老人の遺骨を運ぶ行列の足並みが乱る事は ついぞ無かった

いのなかのうなぎ

【今日やったこと】
ウェスタン。
昨日の抗体染色は、良好

今日もうまくいけば、とりあえず、幸せ。


◇◇◇


ある疲れた夜の詩。


いのなかのうなぎは井戸の底

ふかいふかい 闇の底で たかいたかい そらを見上げる

小さなまるい空の下では 2匹の蝶がふらふらと あっちへ過ぎたりこっちへ過ぎたり

後ろに着いてた一匹は 時々ちょっと意地悪しては 前の一匹を追いかけ回す

それでも2匹当たり前のように いつも一緒に そらをおよぐ


またある時は大きな鳶が 小さな空に小さくなって くるりくるりと輪を描きながら

時々ひょろろと笛を吹く 大きな翼は風をはらんで 高く高くと 舞い上がる


月の夜にはひそひそ話

どこからとも無く聞こえてくるが 時々ふっと 無口になって 
それがしばらく 続いたりする


手も足もない 小さなうなぎ 

ふかいふかい 井戸の底

それが地上で起きたのか 空で起きたか区別もつかず

ただただ届かぬ事だと知って

小さな水面を くるりと回る