2008-03-26

○▲□ (まるさんかくしかく) - 6

毎年現れるという点で、すでに何らかの人為的な物を感じざるを得ない。

どこの宇宙人が、地球の都合で勝手に作られたカレンダーに従って、
ミステリーサークルを作るんだ?

僕は、この話には乗れなかった。
さすがのシイタケもそれには同感だという。
「だって、高速に乗って、時間かけて、わざわざ、農家のおじさん達が作った、ミステリーサークル見に行くわけでしょう?」
シイタケは言った。
「何で農家のおじさんなんだよ」
僕は尋ねた。
「聞いたよ。何せ、去年のミステリーサークルをカピパラ部長が見に行ったとき、間違って前日に着いちゃって、手伝わされたって言ってたもん。」


...僕はカピパラ元部長が、農家の人と麦畑の中、ミステリーサークル造りにいそしんでいる姿を想像した。

熱い夏の太陽が、カピパラと、農家のおじさん達の額を、容赦なく照りつける。

たちまち滴る玉のような汗。

テカる頬、前頭、頭頂、あるいは後頭。

しかし、その表情は、みんな、なぜか眩しいほどの笑顔だ。

「おやつにすべえー!」

農家のかみさんの、救いの声が、聞こえる。


「だからあの村では、今年もうちの学生が手伝いに来るのを、楽しみにしてるんだってさ。」
労働力として。シイタケの言葉に、僕は夢もそがれる思いだった。何で、こんなサークルに入ってまで村おこしの手伝いをしなくてはいけないのか。そう言うことは別に、そう言うことを望む、ボランティア精神に富んだ人たちの集団がこの大学にもたくさんあるはずだ。

「いや、たいていのそう言うサークルは、みんな正義感が強いから。そういう、うさんくさいことは、詐欺まがいだとか言って、非協力的らしいよ。」
「詐欺だろう。どう見ても」
UFOが作ったと言ってウソをついて、人を集めるのだから、詐欺と言われてもしょうがない。
コウベ牛だと言って、輸入牛肉の焼き肉を食べさせたり、コーチンだと言って、普通のニワトリの肉を食わせるのと、たいした違いは無いじゃないか。

「でもねえ、気持ちは分かるのよ」
シイタケが感慨深げに言う。
「あの村、特に名産品があるわけじゃなし、せいぜい麦と豆ぐらいしか育たなくって、観光の目玉になるような物は何もないの。それに、ミステリーサークルそのものが十分うさんくさいから、みんな見に来る人たちは、半分承知で来ているんだと思うけど。騙されたくって来てるんだから、騙すのもサービスでしょ。どっかの夢の国と大差ないじゃない」

夢を売る商売と、ウソを白々しく平気で売るのとはちょっと違う気がしたが、どこが違うのかと言われれば説明できない。相手がウソと知っていていれば、それは許されるのだ。マジシャンは種も仕掛けもないことはしないし、魔法だって使えない。夢の国で夢の生き物たちの背中が割れて、おばさん達が顔を出したら、むしろ怒られるだろう。たとえ、そちらのほうが真実だとしても。

「だからねえ、そう無下にもできないわけよ」
「じゃあおまえは、行きたいのかよ」
僕はそれでも行きたいとは思わなかった。何でこの暑い中、わざわざ汗かくようなことをしなくてはいけないんだ。

「それとこれとは話が別」
シイタケは意外とクールだ。
「手伝いたいのは山々だけど、それはそもそも私たちのグループの趣旨とは違うし、なにより」
シイタケは窓の外の強い日差しを見つめた。
「白肌には毒だわ」

僕はあえてここで、シイタケの容姿について、とやかく言うつもりはないが、僕が彼女を、頭の中でシイタケと呼んでいるのには、それなりの理由があると言うことだけ、言っておこう。彼女はあくまでシイタケであって、まかり間違っても、ブナピーではないのである。

「まあ、そう言うことだから、カピパラ部長の顔をつぶすようだけど、今回は無しにしましょう。いいじゃない、あの顔、これ以上つぶれようがないわ」
そう言うとシイタケは、はははと笑った。

そんなシイタケはさておき、僕は先ほどから何も言わず、うつむいたままのカタクリが気になり出した。大きな瞳が足もとの一点をとらえたまま動かない。何かを、思い詰めている様子でもある。こんな連中とはいえ、初めて参加したのだから、言いたいことを言えずにいるんだろうか。

「樋口さん、」
僕はカタクリに声をかけた。

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