2008-03-04

がれきの城

【今日やったこと】
二次抗体。

さて。


◇◇◇


筆の走るまま書いてみた。

O沢に心配されそう。



東京という街から もはや見捨てられた一人の男が 都心の真ん中に城を建てた

それはがれきの城 用済みとなり捨てられた 幾多の 骸の城

はじめ 小さな犬小屋ほどだったがれきの城は 毎日の忙しさに 誰も気づかぬうちに

一軒家ほどの大きさになり やがて 周りのビル群と規模を競い始めた

捨てられたがれきはうずたかく積もり

時々何かの悲鳴が聞こえる

はじめ がれきを集め この城を建てていたのは男一人だったのだが 気がつくと

男がもはや手をかけずとも がれきは次第に集まってくるようになっていた

都会の 清潔を信条とする人々は この城に 清潔の生け贄となる腐食物を捧げ 何食わぬ顔で 世の清潔をたたえている

自らが清潔を食べ 汚物をまき散らす存在の一つであることを かき消すために
水に不潔を吸わせている

都会の 負の側面に支えられた がれきの城は やがてみるみる大きくなり 東京タワーすら飲み込んでしまった 東京の人々の象徴は いつしか あのような電波の塔のごときではなく この偉大に積み重ねられた がれきの城となっていた

それは使うことを許されたものたちの 使ったことの証明
高度に文化的な生活の遺産

健康な若者に 毎日たくさんの垢がつくように

それは街の若々しさと 代謝の象徴なのだ


がれきの城の成長が止むことはない 

普通の建築物が いずれ至るがれきに向けて 立ち続けているのに対して

このがれきの城は 始まったときからすでに がれきだったのだ
もはや この汚物の山の成長を止める手だてはない

幸いにも この城の出現を 怪訝に思う 有識者はいなかった
人々は少なくとも自分の家さえ清潔であればかまわないのだから

においが家まで届かなければ 高いお金をはたいて買った 琥珀色の香水が邪魔立てされる心配はない

青虫一匹ついていない 完璧なレタスと 無菌の瓶に詰められた高潔なるドレッシング

ミュータンス菌を一匹残らず滅菌する強力な界面活性剤によって隅々まで磨き上げられた真珠のように純白をたたえた健康な歯を用いて

それをばりばりとかじっていれば 人々はまだ 幸せなのだから

今日も がれきの城に日が沈む

風に揺れるセイタカアワダチソウの群れが アキノキリンソウの群れを駆逐した日 

   

1E -24 (涅槃寂静)

【今日やったこと】
ブロッキング。

腹減った。


◇◇◇

今日はなんだかいろいろ思い浮かぶので
あること無いこと、書けるだけ書いてみる。


全てを失った ある夜に

短い眠りに落ちた

後で時計を見ると1時間程度のごくごく短い眠りであったのだが
僕はしっかり 夢を見ていた

はじめに見たのは 足だった

金色に輝く 大きな足

京都あたりの大仏の足 あるいは法衣の裾が見えていたので 菩薩だったのかもしれない

僕はその金色の ところどころ金箔のはげた 美しい足を まじまじと見つめていた

夢はそこで一度途切れ 場面は変わる

僕は 古い木の飾り気のない長テーブルの席に座っている

そこはお寺の境内 石庭の白い小石の上 そこにテーブルが出され 僕はそこに座っている

落ち着いた雰囲気の まだそれほど年取っていないお坊さんが 静かに 僕の前に ご飯の盛られただけの皿をおいていく その脇には また別のお坊さんが あまり見たことのないような 漬け物が載っただけの小皿をおいて言った

『源氏漬けです』

その漬け物の名を僕は知らなかったが 漬け物はどんな名前でも似たような味だろうと思いつつ恭しく頭を下げた

源氏漬けをご飯にのせ 水をかけて 食べた

さほど珍しい味ではなかったが ずいぶんと久しぶりに 本当に食事をいただいた気がした

食べている間に目が覚めた

体は寒くて震えているのに

心臓は早鐘を打ち ずいぶんと汗をかいていた

心臓の音がうるさくて 寝付けないので

そのまま起き上がって 朝が来るのを待った 

日々

【今日やったこと】

ウェスタン 少し泳動しすぎた。

まあ、大事なし。


◇◇◇


疲れた(憑かれた?)のでもう一つ。


深い深い山の奥で 一人の老人が 今まさに息を引き取ろうとしていることに 気づく人はいない

たとえその家族がその周りを取り巻き この 彼らにとって無二の人物の 死を嘆き 悲しんでいたとしても 埼京線を走る 一分刻みの電車が 思わず走るのをためらうことはない

その老人が 思い残した 小さな孫の小さな頭をなでようとして 手を伸ばそうとしている刹那に 丸の内の高層ビルのオフィスの一角で いつの間にか中堅に数えられるようになったOLが 人数分の紅茶を入れながら 周りに聞こえないほど小さな ため息をついていた

老人の言葉は思いの外小さく 長年連れ添った老女は ただでさえ遠くなった耳を口に押しつけんばかりにしてそれを聞き取ろうとしているが 昨日直したばかりのコーヒーメーカーには今日も『使用不可』の張り紙が貼られている

老人は絶命するとき 天井を見上げ なにやら一言つぶやいたようだが それを聞き取れた人はいない ある者は老女の名であったと言い またある者は 孫の名であったと言い 別な者は老女すらも知らない 女性の名であったという 

東京のオフィスビルの片隅で すっかり肩身の狭くなった 喫煙者が マルボロの赤い箱を握りつぶしながら大きく一つ くしゃみをしたようだが 老人の遺骨を運ぶ行列の足並みが乱る事は ついぞ無かった

いのなかのうなぎ

【今日やったこと】
ウェスタン。
昨日の抗体染色は、良好

今日もうまくいけば、とりあえず、幸せ。


◇◇◇


ある疲れた夜の詩。


いのなかのうなぎは井戸の底

ふかいふかい 闇の底で たかいたかい そらを見上げる

小さなまるい空の下では 2匹の蝶がふらふらと あっちへ過ぎたりこっちへ過ぎたり

後ろに着いてた一匹は 時々ちょっと意地悪しては 前の一匹を追いかけ回す

それでも2匹当たり前のように いつも一緒に そらをおよぐ


またある時は大きな鳶が 小さな空に小さくなって くるりくるりと輪を描きながら

時々ひょろろと笛を吹く 大きな翼は風をはらんで 高く高くと 舞い上がる


月の夜にはひそひそ話

どこからとも無く聞こえてくるが 時々ふっと 無口になって 
それがしばらく 続いたりする


手も足もない 小さなうなぎ 

ふかいふかい 井戸の底

それが地上で起きたのか 空で起きたか区別もつかず

ただただ届かぬ事だと知って

小さな水面を くるりと回る