2009-11-28

遙か、スコッチの国より

【今日やったこと】

Facs。

細胞が、流れてく。

◇◇◇


スコットランドからゲストの先生が来られたので、昨日はその接待に追われた。

お昼頃の飛行機で来られるとのことで、まず、自分が空港までお出迎えに行った。
先生方は駅で待っているとのことだったので、空港から駅までは自分がひとりで案内しなくてはいけない。出がけから少し緊張し、そわそわして、いつもより相当早い時間に学校に行ってしまったので、いつも早出の後輩に、めずらしいですね、と言って笑われてしまった。

空港へは、エアポートライナーで向かう。ちょっと早めの列車に乗っていったので、空港で少し待つことになるかなと思っていたのだが、付いてみれば、飛行機の到着が15分も早まっており、自分が着いて30分もしないうちに、ゲストの先生がゲートから現れた。

'Hi!'
彼女はそう言ってまず手を差し出してくださった。
聞いていた話では50歳後半の、おばあちゃん、と言ってもいいような年齢の方のだが、真っ黒いダウンジャケットに、チェックのスカートのようなものを撒いていて、なんだかかっこいい。さすが、スコッチ。チェック柄は世界の誰よりも似合うはず。

「ちょっと、タバコ吸っていいかしら」
挨拶もそこそこに、ジェスチャー混じりで、彼女は言った。
「……飛行機の中じゃ、ずっと吸え無くって」

僕はノンスモーカーだし、空港の喫煙所なんて場所も知らない。

'Excuse me...'と、ことわって、あちらこちら捜して、ようやく見つけた。

「二分だけ、頂戴」
そう言うと、そそくさと中に入って行ってしまった。

すごいもんだ。なんだか解らないが、僕は彼女のエネルギーに感心してしまっていた。
しかし、のんきなジャパニーズが感心する間もなく、彼女はオメガの時計よろしく正確に2分で喫煙所から出てきて、
「さあ!行きましょう」
すっきりした顔をして、そう言った。

荷物を持ちましょうか、と、来る途中で覚えた言い回しで尋ねてみたが、
「大丈夫!、わたしまだ足腰、タフだから」
と言って笑い、そこからは早口で、ここまで来る途中の苦労話などを語っておられたが、ところどころ、どころか、2割も聞き取れなかった。なまじ、英語がしゃべれるような振りをしただけに、彼女のマシンガントークを聞きながら、内心ちょっと後悔していた。変な見栄なんて、張るんじゃなかった。僕の苦笑いにも構うことなく、彼女のお話は続く。

その時は、この先どうなることかと、もうどうしようもなく、心配していたのだが、
幸い、彼女が活動的だったので、駅まで何の支障もなく送り届けることが出来た。

途中、唯一、自動改札にだけは戸惑っていたようだけれど、それもすぐに覚えてしまった。さすが、イギリスからひとりで来られるだけのことはある方だ、と、そんなことでも一々関心した。


ただし、やっぱり気は遣った。駅について、出迎えに来ていた教授らの顔を見た時には、彼女以上に僕の方が喜びの余りビック・スマイルになってしまった。

「……ごくろうさん」
全てを察したような教授の苦笑いとねぎらいの言葉。
どっちが出迎えられたのか、解らない。

その日はその後、彼女と、教授らとデパートの上の方で昼食を取り、半日、研究室巡りをし、うちの研究室で彼女のセミナーを開いた後、自分の研究紹介を5分ほど行って、いくつかコメントをいただいた。さらに、出迎え側の先生の1人がホヤの専門家の方だったので、夜はホヤ料理を出す居酒屋さんでささやかな歓迎会になった。

僕らはみんな日本人らしく、“とりあえず、ビール”と頼んだのだが、彼女だけは、ビールはすぐにおなかいっぱいになるからと言うことで、それには混じらなかった。

その代わり、しばらくメニューを睨んだ後、一升瓶の写真を指さして、
「日本酒、いただける?」
とすました顔でおっしゃった。

かくして、4人の日本人がビールを飲む中で、スコットランドの彼女が日本酒という、何とも、ちぐはぐな飲み会となった。途中、居酒屋のご主人が気を利かせて、エルガー、と言うイギリスの国民的クラシック作曲家の曲を掛けたりしたものだから、日本酒にビールに、ホヤにホッケに、クラシックにしてはノリノリの鼓笛隊みたいなエルガーという、ちんぷんかんぷんな取り合わせになってしまった。エルガーは、たとえば運動会の行進の時に流れる「威風堂々」と言う曲の作曲者なので、名前は知らなくても、たぶん一度はみんな聴いたことがある。とにかく、じっとしていられないほど忙しい曲を書く人だ。

その上、挙げ句の果てに、クラシックの何曲目かで「この曲は、女王の曲だ!」と言って、彼女が戯けて立ち上がり、敬礼のポーズをして見せたりしたので、なんだかエルガー以上にとても騒々しく、そして楽しい飲み会になった。

ちなみに、日本でもテレビを付けたら「オースティン・パワーズ」がやっていたことに彼女は非常に感動していた。
そう言えば、あれもイギリスを代表する、おふざけコメディだったねえ……。







オースティン3作目の冒頭。見たことは無いけれど、なんか、見たことある顔が……。