2008-03-28

○▲□ (まるさんかくしかく) - 8

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当日は驚くほどいい天気に晴れ上がり、空には雲一つ見られなかった。

朝見た天気予報では、日本全国に晴れマークが並んでいて、雨の心配など、全くせずに済みそうだった。出不精の僕でも、さすがに家の中にいるのがもったいなく想われるほどの快晴で、心配した暑さもそれほどではなく、まさにお出かけ日和と言ったところだ。

大学の前に留められたシイタケの車はピンクのビートルという軽自動車で、車そのものは、それなりに、かわいい。もちろん、こういう色は、乗る人を、相当選ぶとは思う。

シイタケの運転する小さな車に乗って、僕とカタクリとは毎年ミステリーサークルの現れる田舎の山奥の村に向けて出発したのだった。

こういう時の法則に従って、僕が助手席でカタクリが後ろ。

男の方が地図を読めるという、一種の脳の性差に基づく、勝手な棲み分けによりこういう事になっているのだろうが、車を持たず、普段地図をあまり見ない僕が、果たしてどこまで、この法則に従えるかは疑問だ。

話を聞けば、カタクリも車を持っているとかで、自分はさらに自信をなくした。地図をうまく読めず、現在位置を見失って、うろたえることは、必至だ。そんなとき、きっと助けてくれるのはカタクリだろう。あきれたようにためいき、つきながら。

彼女を助手席に乗せ、小脇に抱えるようにして、車をバックさせたり、ギヤチェンジのある車の方がかっこいいからとマニュアル車にする友人が大勢いて、そんな話を聞く度に、僕は永久に彼女などできないとあきらめたものだ。

政治家の必須の要素に『地盤・看板・鞄』と言うのがあるそうで、地盤は地元の支持、看板は知名度、鞄はお金のことだそうだ。この三つがそろわないと選挙には勝てないと言われているそうだが、僕はこれにたとえるならば、男に必要な要素は『特技・車・鞄』だと思っている。

車がないやつでも、スポーツだとか、料理だとか、一芸に秀でたやつは、女の人の関心を引きやすいし、車を持っていればなおさら、向こうもこちらも声をかけやすい。どこかへ一緒に出かけるのに、相手が車を持っているのは口実になる。

金を持っていれば、魅力的なのは言うまでも無し。ただし、もちろんこの三点だけで十分というわけではない。そこには『顔』という努力だけではどうしようもない、先天的要素が、多分に絡んでくる。

ただ、いくら考えたとしても、もてない男のひがみにしかならない。自分に足りない物を、あれこれと挙げてみては、おれにはないから無理だと、己を説得しているに過ぎないのだ。こうして、いつしか、恋愛することそのものさえ避けてしまう。これが一番の壁だとすれば、それは僕にとってあまりに高い壁だ。

いつ、このシイタケが道に迷ってしまい、地図を必要とするかという恐怖を抱えたまま、僕は助手席で身を縮めていた。

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