2007-12-10

夜を越えて (Vol de nuit)

【今日やったこと】
モノクロの作った抗体に対してウェスタンブロット。

実はもう、一度試していてそのときは不手際のためうまくいっていない。

さて、

どうなることやら。


◇◇◇


飛行機に乗った。

夜の。

今まで、何回か飛行機に乗ったことはあったのだが、
夜、本当に真っ暗になってから乗ったのは初めてだ。

夜の滑走路は驚くほど真っ暗で、その漆黒の闇の中に、色とりどりのランプが
瞬いている。

空には星はない。

でも、ランプは、色ごとに列をなし、暗闇に、光の道を紡いでいる。
"ここをはしれ”と、光は無言のうちに誘導している。

天が地なのか、地が天なのか。

このような逆転した光の世界では、その感覚すら危うくなる。
気をつけないと、いずれ空へ落ちていってしまいそうになる。

飛行機の巨大な体は、その光に促されるように、おずおずと、滑走路に身を据える。

子供が泣いている。キャビン・アテンダントが、おろおろしている。

しかし、離陸のための手続きは、粛々と続く。

子供が泣いている。

チーフ・パーサーのアナウンス
"本機は、定刻どうり離陸いたします。皆様、安全のため、ランプが消えるまで、シートベルトは外さないようご協力ください”

ポーン、ポーン

機内に警報音が流れる。

エンジン音が高まる。

エンジン音はやがて、ごうごうという爆音に変わり、
この優雅な機体の飛行機には似つかないほど暴力的な音を立てて、加速を始める。

窓の外に見えていた、いくつもの光の羅列は、やがてそのあまりの加速のために、一本の線となり、窓の外に流れている。

今は、まだ、地上にいるのだろうか。それともすでに、宙にあるのだろうか。

この暗闇では、それすら、定かでなくなる。

ただ、足下から伝わってくる、車輪の振動だけが、それがまだ、地面に縛り付けられていることを伝えている。

やがて、

その振動から見放されたかのように、機体は突如として切り離され、ふわりと、宙に浮き上がったのを感じる。前屈みになるような重力。

その重力もしだいに減弱し、機内には一瞬の静寂が訪れる。

ベルト着用サインが消える。
キャビン・アテンダントがあわただしく動き出す。

そのとき、ふと、窓の外を見れば、

そこには、すでに、我々の物ではなくなってしまった、一面の星くず。

人の営み。

いつしか子供は泣きやみ、お父さんのおなかの上に抱かれて、窓の外の
銀世界を見ている。

隣では、その子の幼い姉が、にこにこ笑って、母親の顔をのぞき込んでいる。


機体はやがて、進行方向右に傾斜し、くるりと街の上空を旋回すると、

やがて静かに、別れを告げた。



蛇足;
飛行機が夜間離陸し、暗闇の中で見える、いくつもの街の灯の上を通り過ぎる描写を、
飛行家だったサンテグジュペリは "(暗闇から獲得し) 我々の物になる”あるいは" (遙か彼方へ通り過ぎた街は) すでに我々の物ではなくなった”といった表現をしている。

サンテグジュペリはすごく好きで、特に"夜間飛行"は何回も読んだが、今回やっと、その表現を追体験できた気がしている。

そういえば、この本をおそらく読んでいる (文庫版の表紙を書いている) 、宮崎駿の書いた詩に、

"たくさんの灯がなつかしいのは/あのどれか一つに 君がいるから”(君をのせて)

と言うのがあった。

サンテグジュペリの有名な言葉に
"砂漠があんなに美しいのは、どこかに井戸を隠しているからなんだ" (星の王子様)
というのもある。

そんないい言葉が、あの夜の飛行機の窓を眺めているとぐんぐん伝わってきて、
なんだか酔ったような、心地よい気持ちになって、いつしか寝てしまった。

できれば飛行機は、また夜に乗りたい。

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