2008-12-25

忘れられた品々は嗤う

落とし物を捜して

日夜歩き回るあの日の僕を駅前で捕まえました。

そんなもの探してもしょうがないから、もう、家に帰りな。

そう言ってやった僕の目を、あの日の僕は
呆然と見つめ返したのです。

そんなこと言っても、なくした物は、拾わなくちゃ。
なくした物はどこへ行くの?

暗い、暗い、何処か、闇のそこで、誰にも気づかれない、音の聞こえない、光の射さない。

ただ、静かに、誰かの楽しげな、笑い声だけが、幻聴のように
自分の関与できない幸せが、何処か、手の届かない遠くの方に
行き過ぎるだけの静かな場所で、永遠にも近い時間を
忘れられたものは過ごしているの?

暗渠?
いや、そんなものじゃない。
暗渠には、出口も、入り口もあるんだ。

なくしたものは、きっと、もうどこから来たのかも忘れて、
どこへ行くべきかも忘れてしまって

ただ暗い闇の底
静かに、静かに、流れの止まった、川底の澱のように
その時々を沈むんだ

時間ももはや沈殿を初めて
忘れられたものたちは、
濁った視界に遮られ

純粋な暗黒さえ、得られぬまま
ちっと小さく舌打ちして

忘れた僕らを憎むんだ


だから、探さなくちゃいけない


過去の僕は今の僕の止めるのも聞かず
そうして過去の駅前で
なくしたものを探すのでした

今の僕は、おもえばこれまで、
一体、いくつのことを忘れてきたのかと
考えるだに恐ろしくて、そのことを考えることすら忘れて
今日を安穏と、生きてきたのです。

忘れることで、今日を生きることが出来るのだと
僕は思うのですが、その一方で
僕は多くのものを自分の見えない後ろに
うち捨ててきたような気がして
ふり返るのさえ、怖いのです。

そうして、うずたかく積もった忘却の過去に
僕はいずれ、飲み込まれていくのでしょう

その時、僕は
探さなかった幾つもの見たくもない過去の事象と
どのような顔をして向き合うのでしょうか

僕はその日が怖いのです
だけれども、こうして
なくしたものをまだ探そうとしている
過去の僕を手伝うわけにも行かずに

僕はその駅を、去ったのでした。

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