2008-04-20

溺れる魚

何かを探して、街を歩いた。

いつも行く、中古品店。
ホームセンター。

行ったことのない繁華街。
人通りの多い中央の商店街。

若者の群衆に紛れ、
老人の間を縫って、

品物と品物の間を
流通と流通のその結合点を
僕は一人駆け抜けていく。

出所の分からない嘲笑が聞こえる。
それは行き場所の分からない笑いでもある。

誰かが、大声を上げている。
親しげに誰かを呼んでいる。


無数の人間の中で、彼らの見ている物はおそらくただ一人。
Focus.
個別の存在と無数の不在。
それは周りを捨てることでもある。
情報過多の世界におぼれないために、その海を否定せよ。


渦を巻く人間の中で、何度も繰り返される
そうした感情の漏出にいちいちおびえながら、
それでも僕は何かを探して歩いた。

入ったことのない店にも何度も立ち入り、
通ったことのない通りにさまよって、

一度来た道を三度も四度も往復したあげく
もう一度階段を駆け上がったりして。

それでもそれは見つからなかった。

僕はその時気づいたのだ。
僕もまた、海を見ていなかったことに。

溺れる魚は空気を否定し
陸に上がり空気に溺れ

鍛え抜かれた魚眼のレンズは、
陸で物を見る能力を持たぬことすら知らずに
己の目だけを頼りに躍り上がる愚者よ

見ようとしなければ
何物も見えない事実を無視し
捜し物から同時に目をそらしていた矛盾する現実

過ちに気づき、見上げた天にもう太陽は見えず
あざ笑うような群青色が僕を干す

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