2008-04-03

午前三時の妄想-3

【今日やったこと】
そりゃあ、大腸菌の培養さ。

ほかに、なにがあるってんだい?
◇◇◇


酒飲んで、泥酔して、書いた文章。
たぶん明日、覚えてない。
でも、僕の真実。一つの、ロックさ。
下品。
嫌いな人、読まないで。

--
Dagger, in the Jack's pocket
(You are ass hole, my honey.改題)


「なんで?」
彼女が言った
「何で、そう言うことになるの?」

東京、神田付近のファミレス。
僕らの行きつけの、店の一つ。
そこで彼女は大きな声を上げている。
僕らの空気が凍る。
「美佐子、ごめんよ」
孝史が言う。
「健二が、どうしても、無理だって言うから」
孝史は、結局“いい奴”なのだ。そう言って、いつも僕の所為にして、話を終わらせようとする。

「え?、また健二なの」
美佐子は言う、その目は僕を明らかにさげすんでいる。
「いい加減にしてよね、私をいくら待たせたら気が済むの」
彼女は、その切れ長の目で僕に迫る。
それは見方によっては狐のように鋭く、
一方で猫のように妖艶だった。
「ごめん」
僕は謝った。彼女の前では、下手な口をきくだけ無駄だ。
自分のプライドなど捨てて、一匹の虫けらになったつもりで、侍るほかない。
それが、いかに僕にとって屈辱だとしても、それが僕らの礼儀であり、最大の愛情表現だ。
「意地のない男」
彼女が鼻で笑った。
僕は卑屈に笑った。
心の中では、くそったれ、と思いつつも。

女の虚勢など。
僕はあくまで心の中でだけ、強がりを言っていた。
いざとなれば、たいした問題とならない。
僕は思っていた。
男を知らない女ほど、自分がサディスティックかマゾヒスティックか気にするものだ。
しかし結局、女は、その体の構成上、徹底的なサディスティックな存在にはなれっこ無いのだ。
僕は心の中で蔑んでいた。世の強がりな、女という存在全てを。

それは男を知らないが故、意気がれる、ガラスのような虚勢だった。
それだけに、僕らには、それは儚く、哀れですらあり、そして美しかった。

「ふん。斉藤」
彼女は僕の名を名字で呼んだ。まるで、僕を足下でも及ばない存在にまで見下したと言わんばかりに。
「あんた、私にそんなことを言う権限があるの?」
僕は心の中で、爆笑した。
へ、何言っていやがる、この世間知らずの童女め、
男のなんたるかも、知らないくせに、SMの女王気取りだ。
「ごめんなさい、美佐子さん」
僕は言った。あくまで申し訳ない表情を取り繕ったまま。
「僕はその日予定があるんです」
僕は言った。
「あたしより優先する予定ってなに?」
美佐子は言った。
極めて整った顔。そして絶対的な容姿。
彼女はそれが全てだった。形こそ、彼女だった。
その表情は、自信に溢れていた。
あばた顔の僕など、虫けら程度にも思っていない様子だった。
「ごめんなさい、その日は、光との約束があるので」
僕は言った。
「光?ふん。」
美佐子は鼻で笑った。
「あの田舎くさい女に、あなたは私を優先するというの?」
美佐子は再び笑った。
「ばかばかしい」

全くです。
孝史が言う。
ばかだな、おまえ。
他の下僕どもが笑う。
しかしどいつも、卑屈な顔をしている。

「ばかばかしい、と言いますが、」
僕は言ってやった。その哀れなガラスの人形に。
「あんたみたいな、男を知らない娘と一緒にいちゃいちゃしているよりはましなもんでね」

一瞬世界が凍った。
孝史は、笑顔のまま、マイナス197度の世界にでも放り込まれたように、固まっていた。
彼にとっては美佐子が全てなのだ。彼女が全ての美意識の基本であり、彼女の基準に合わない者は全て、愚であった。
それは言わば、美佐子以外の女を知らないことの裏返しだった。
「ふ..、何を言うの?」
美佐子は言った、明らかにその目は泳いでいた。
彼女の瞳は、自分に蔑む男の顔は覚えていても、それに刃向かう男の顔は知らなかった。
その目は僕を正しくとらえてはいなかった。
ただ、彼女の体に群がる、無数の夜の虫の一匹位にしか、僕をとらえていなかったはずだ。
まさか、こんなあばた面の虫けらの一匹が、高貴な彼女に反乱を起こすとは夢にも思わなかったに違いない。
僕は他の何かしらとともに、彼女を貪った男一人ではあったが、その体を餌食としていながら、その目は常に蔑みに満ちていたとは、愚かにも、彼女は気づく余地もなかったらしい。

「ばか、ね」
美佐子は言った。僕をとらえきれないままに。
「光だなんて。」彼女は言った。ガラスは、いつの時代も美しい。その表面に傷の付くまでの、はかない時間の内においてだが。
「あんな、不細工、私は初めて見たわ」
全くその通りだ。僕は思った。
あいつは、美佐子に比べたら、不細工意外の何物でもない。
でかい口、鼻の穴。泥臭い口調。がっちりした顎。
どこをとっても、可憐な芸術品のような、美佐子の足元にも及ばなかった。
しかし、僕は彼女こそ、僕が最優先すべき女性だと思いつつあった。
「へっ」
僕は鼻で笑った。
「おまえは確かに、男もへつらう美女かもしんねえけどよ。」
僕は言った。
「きれいなだけの女はいくらでもいらあ。それに」
僕は皮肉に笑った。
「エロ本の中のきれいな女ってのは、一回見れば飽きちまうもんさ。おめえは、そん位の価値しか、ねえんだ」

彼女は、目に見えて紅潮した。
孝史は青ざめた。
僕はざまあミヤガレ虫けらめ、と思った。
「田舎臭え、女と言ったな、雌牛」
僕は言った。
「あいつのでけえ顎は、おめえみてえに好き嫌いしねえ。何でも食うし、何でも話す。変なプライドにかまけて不自由な思いしているおめえとは、格が違うんだよ」
美佐子は、依然紅潮したままだった。
彼女にとってはこのような事態は想定外のものであったらしい。
孝史は依然おろおろしている。彼は、美佐子の価値観に従う意外の何物をも、発達させてはいなかった、哀れな男だった。
「こんな、美人の5Pの相手になる位なら、」
僕は言ってやった。
「俺はあの不細工のために、一生を捧げてやる。」
僕の脳裏には、光の、あの不細工なでかい笑い顔が浮かんだ。
それは、確かに、女と言うのも憚られるほどの存在だった。
しかし、彼女こそは、自分を、一人の男として認めてくれた存在だった。
こんな、どの人間からも相手にされない、虫けらのような自分を、
気に入り、愛していますとまで言ってくれた、存在だった。
「ばかよ」
美佐子は言った。
「あんな、糞みたいな女」
そうですとも。
孝史は言った。
額には無数の脂汗が浮かんでいる。
それは、美しい女をもらってこそ全てという、既成概念に囚われた、哀れな男の姿に見えた。
「糞だと?」
僕は言った。
「糞でも、カスみてえなてめえと、いい勝負だ。おれを、認めてくれるのなら、糞とでも喜んでセックスしてやるよ。」
美佐子は言葉を失っていた。
孝史は依然青い顔をしていた。
彼の頭の中は、美佐子との関係をいかにして修復するか、その一点で凝り固まっているように見えた。
彼の思考はその範疇を超えて、美佐子を捨て去るという規定外の領域には達成できないほど、美佐子に心酔していた。
「孝史。」
僕は言った。
「哀れだな。おめえは虫だ。そんな整った顔していながら。」
僕はなおも言った。
「よく見てみな、この女を。50過ぎたら、どこを見て過ごすつもりだ?」
僕はそう言って、そのラブホテルのロビーを出た。
僕の頭の中には、不細工な光の笑顔がくどいほど浮かび上がっていた。
僕はネオンサインのきらめく街で一人苦笑せざるを得なかった。
しかし、世界で唯一、こんな、後先見えない自分をそうと知りながら、好きだと言ってくれた、その醜い愚かな笑顔を、
むざむざと見捨てるわけにはいかない気がして、僕は帰路を急ぐのだった。

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