2008-04-03

午前三時の妄想-4

作者注;以下の文章は相当疲弊した時に書いた物です。
理性の働きがだいぶ落ちています。(今日は全体的に疲れ切っています)
あんまり、よろしくないかも。嫌いな人は飛ばして下さい。
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なぜか昔から、
こういうレイプなシーンを見ると、
完全に男の立場になれない自分がいました。

なんか、どっちも大変そう。
そう言う感覚は、今だにあります。
冷静とは、つまらない物です。

まえに誰かに教えた詩の続き。
(現代文語訳)

“...自分とそれからたったもう一つのたましいと
完全そして永久にどこまでも一緒に行こうとする
この変態を恋愛という

そしてどこまでもその方向では
決して求め得られないその恋愛の本質的な部分を
無理にでもごまかし求め得ようとする
この傾向を性欲という --- 宮沢賢治”

性交渉より、愛が欲しいです。

...だいぶ疲れてんな、おれ。

本日の妄想は、生理的な恐怖、がどうやらネックのようです。
書いているのは筆なので、僕ではありません。
それが深層心理にしろなんにしろ、どうしようもないです。
そういうの嫌いな人は読まないで。

他に、もっと健康的(?)な詩や文章も、いっぱい書いてあるから。

追記;
後でよく考えてみたら、太陽は人間の道徳の象徴でもあります。
「お天道様が見てる」ってやつ。彼女が太陽を遮ろうとしたのは、
あるいは自分の道徳にふたをしようとしたためかもしれません。

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A blink of the sun

ジグザグの通り。48番街。
そこは嘗て、『ブラック』とまで言われた通りで、その場所を知らない人間がうかつに近づけば
たちまち追いはぎに遭い、一文無しにされ、挙げ句の果てには命まで奪われるそんな通りだった。そう聞けば多くの人は、ニューヨークあたりの、ハーレムを想像するかもしれない。
しかし、ここは日本だ。
正真正銘、日本の真ん中の、日本人だけが住む下町の通りなのだ。
いつからそんな暗い影のつきまとう場所になったのか。
それを正確に知るものも今では少ない。
以前から住む者は、一人、また一人と減ってしまって、今では路地の一番奥のバラックのような小屋に住む『権じい』以外にこの町の古い習わしを知るものはいなくなってしまった。
「ねえ、権じい」
美由紀は尋ねた。彼なら、聡の行方を知っている。そう言った者がいたからだ。
権じいはもはや目もろくに見えなくなったかなり高齢の老人で、果たして意識すら、まともに働いているかを危ぶまれるほど日頃はぼんやりしていた。
「私の息子を捜しているの、このぐらいの、小さな」
美由紀は右の手で、果たして見えているかも怪しい権じいの前に、その子の身長を示した。
「小さな男の子なの」
権じいは、その説明を聞いてもうんともすんとも言わなかった。ただ笑って
「そうかい」
と言っただけだった。
「そうかい、って...」
やっぱり、こんなおじいさんじゃダメなんだろうか。
美由紀は思った。
こんな町の人の意見をすんなり聞き入れた私が馬鹿だった。こんな嘘つきだらけの危険な街で、
私はたぶらかされているんだろうか。
権じいは以前として、何かを言う出す素振りはない。
美由紀の顔すら、ちゃんと認識しているか、怪しかった。
「ねえ、おじいさん」
美由紀はそれでも、子のもうろくした老人に尋ねた。他に心当たりなど無いのだ。
「本当に知らないの?」

聡は、美由紀のたった一人の息子だった。
その父親が誰だったのか、彼女は正確には分からなかった。
当時、彼女には、後の夫となる男がいたが、その男が正確に父親である可能性は、半分だった。
もう半分は...。
美由紀はその顔を、なぜだかよく思い出せない。
来客があり、玄関を開けたとたん、彼女はそこに押し倒され、
気がついたときには、全てが終わっていた。
彼女はあまりのことに驚き、放心していた。
若い男だったようでもあり、中年ぐらいだったようでもある。
彼女の耳の奥には、絶頂を迎えた男の、馬の嘶きを思わせるような動物的な奇声だけが
かすかに残っていた程度だった。

彼女は、目が回るようだった。
目の前が真っ白になり、真っ暗になった。
そして、気がつくと、お昼過ぎだったはずの時間は、夕方になっていた。


正気を取り戻し、まず思い浮かんだのは、彼の顔だった。
彼の、いつも優しい笑顔が、目に浮かんだ。
せっかくつかみかけた、彼との幸せなのに、
ここで、離すわけにはいかない。
夢だったと思おうとした。
しかし、彼女の内部には、うずくような痛みがまだ残っていた。
それは残酷に、彼女の身に降りかかった悪魔のような男の存在を主張しているようでもあった。
彼女は、しかし、認めるわけにはいかなかった。
結局それを秘密として押し通した。

まもなく彼女は、一人の子を身ごもった。
「あなたの子よ」
彼女は言った。
彼はたいそう喜んだ。笑うと細くなる目を、更にいっそう細めて。
彼の喜ぶ顔は、彼女も好きだった。
だから、これでいいんだ、と彼女は思った。この子は、私たちの間の子。

たしかに、実際に、そうかもしれなかった。
しかし、そうでないかもしれなかった。
いくら、不用意であったとはいえ、たった一度のことで。
彼女はそう考えようと努力していた。
決定的な検査をしない限り、その不安をいつまでもぬぐい去れないことは、
暗黙のうちに承知していながら、彼女にはその勇気が持てずにいた。

いずれにしろ、この子は育てなくてはいけないのだ。
彼女は思った。
誰の子であろうと、生を受けた以上、今更捨て置くわけにも行かない。
彼女は、自らの子を不義の子として恨むにはあまりに人が良すぎた。
そして、完全に恨むほどの根拠がないことも、事実だった。
たとえ、真実がどうであったとしても、恨むべきは、
あの悪魔のような出来事であって、この子ではない。そう思うようにしていた。

実際彼はこの子の誕生を、本当に心待ちにしていた。
ただでさえ、後ろめたい思いを抱えながら、更に彼の期待を裏切るようなことはだけはしたくなかった。

その子は順調に発育し、そして一人の男の子として生を受けた。
彼によりその子は聡と名付けられた。
彼は聡をたいそうかわいがった。実際、目の形がどことなく、彼に似ていた。
彼女はほっとした。間違いない。こんなに似てるんだもの。

彼はすぐに、2人目を作ろう、と言いだした。
確かに、それは当初から予定されていたことだった。
兄弟がいなくちゃ、かわいそうじゃない。
それは結婚前、彼女が言い出したことだった。
彼女は快諾した。

しかし、なかなか二人目の子は授からなかった。
2年がたち、3年がたっても、その兆しはなかった。
彼は訝しんだ。
まず美由紀の方が先に疑われ、病院に行ったが、特に異常はないと言われた。
続いて彼が受けた検査で、驚くべき事実が判明した。

彼は、無精子症だったのである。

「これは、ちょっと遺伝子を調べてみないと分かりませんが」
青白い顔をした痩せた医者は言った。
「ひょっとすると、先天性の物かもしれませんね。」

「先生、まさかそんなはずはありません」
彼は言った。
「現に僕らは、すでに子供を一人もうけているわけですし。」
「ああ、そうなのですか」
医者は言った。
「ならば、先天的と言うことはないかもしれませんが...。いずれにしろ、珍しい症例ですから、研究のために、遺伝子を調べさせていただいてよろしいですか?」
「必要のない検査はしなくても...。」
付き添っていた彼女が彼に言った。
しかし、彼は首を横に振らなかった。彼は医師に向かって言った。
「お願いします」
そして彼女の方を振り向くと、
「今のままじゃ、結局、聡の兄弟を作ってやることはできないだろう?検査して原因がはっきりすれば、治療もできるかもしれないじゃないか」
そう言って、あの彼女の好きな笑顔を見せてくれたのだった。

「ねえ、権じい」
権じいは依然として、返事をしない。
ただ、急に春めいてきた陽気の中で、彼の首はうつらうつらし始めた。
なんて、のんきなおじいさんなんだろう。
彼女は思った。
どうして、こんな危険な街で、
彼のような無防備なおじいさんが襲われてしまうことがないのだろう。
災厄は、人を選ぶのだろうか。私のような人間には、躊躇無く襲いかかってくるような物が、
一部の人間には全く降りかからずに、済んでしまうものなのか。
それは全く、この危険な街の、一種ミステリーと言っていいように思われた。

「どうだい、分かったかい」
帰り際、彼女に、権じいのことを教えてくれた男が、再び話しかけてきた。
どうやら心配してくれていたらしい。
「全然」
彼女は力なく答えた。

「そうか...。あのじいさんなら知ってるかと持ったんだが...。悪いな、無駄足踏ませたみたいで」
男はまるで自分のことのようにしょげかえっていた。
「いいのよ。そんな、気にしないで。あなたの所為ではないんだから」
彼女はそう言って、彼を慰めた。
そうか、
そう言って彼は顔を上げた。
その表情は、よく見ると、以前もどこかで会ったような気がした。

そのとき彼は、傾きかけた午後の太陽を背にしていた。
その顔は太陽を背景にして、一つのシルエットになっていた。
そのシルエットを、彼女は、彼のおなかの下から見た様に錯覚した。

その固いおなかの皮にこすられた気がした。
そこに生えた毛の一本一本の感覚を彼女は、再び撫でられたかのように思い出した。
何かの音が聞こえた気がした。
あの日の痛みが繰り返し繰り返し思い出された。
内蔵をかき回された。
あの日の彼と彼女の動物的な臭いが蘇った気がした。
なすすべのない恐怖がせり上がってきた。
落涙、嗚咽、嗚咽、呼吸...、彼女はおなかの下から、それを見上げていた。唾液が落ちてきた。一人の、男の....、目前の戸口はあまりに遠かった。悲鳴を上げたが、声にはならなかった。
太陽は眩しかった。太陽に見られている気がした。太陽は見ていた。疑いもなく見ていた。

見ないで欲しい、見ないで欲しい....、

彼女は手を伸ばした。太陽を遮ろうとした。
しかし、その手は虚しく空を掴んだに過ぎなかった。

彼女が掲げた手の先で、太陽はその崩れゆく女を
瞬きもせず見つめていた。


不意に、彼女は背筋にぞっと寒気が走るのを感じた。
今自分がいる場所を一瞬忘れた。
目の前の男から、自分の体を抱えたまま
自然に後ずさりしている自分に気づいた。

理由は分からなかった。
ただ、純粋に、恐怖だけが湧いてきて、
そして反射的に彼女の体は戦慄し、顔色はたちまち青ざめた。
男は、美由紀の様子が急におかしくなり、今にも倒れそうになったのを見て、ふとその腕に手を掛けた。
彼女は、咄嗟に、その腕を払った。
「さわらないで」
彼女は言った。
「...さわらないで...。」

彼は、一度出した腕をどうしたらよい物か困っている様子だったが、やがてそれを引っ込めた。
その目は明らかに彼女を心配していたが、彼女の耳はその向こうに、
かすかに、馬の嘶きを聞いた気がした。

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